シンプルで現代的な上演~ナショナル・シアター『ジェーン・エア』(配信)

 ナショナル・シアター・ライヴがナショナル・シアター・アット・ホームとしてウェブ配信している『ジェーン・エア』を見た。

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 木枠みたいな2段になっているシンプルなセットがあるだけで、衣装も簡素なもので、ヴィクトリア朝風のお屋敷などを思わせる重厚さは一切排したモダンな美術プランの上演である。役者の人数も少なく、ジェーン役(マドレーン・ウォラル)以外はいろんな役を取っ替えひっかえやっている(犬のパイロットも人間の役者が演じており、これが超犬っぽい)。ジェーンやロチェスターは、おそらくわざとわりと平凡な容姿に作っており、全く理想化されていない(原作の描写からして、たぶんこれが正しいのではと思う。最近の映画とかはジェーンとロチェスターを美男美女にしすぎてるきらいがある)。

  台詞などはかなり原作に忠実なのだが、ヴィジュアルが原作とはだいぶ印象が違う。とにかくシンプルさの中に力強さを…というコンセプトの上演で、いろいろなものをそぎ落とすことにより、自由を求めるジェーンの強い性格と波乱に満ちた物語を浮かび上がらせようというものだ。全体的に真面目だが、笑うところもわりとある。最初と最後が同じ場面で円環になっており、生命の循環みたいなものを示唆して終わる作りもなかなか気が利いている。

 ヴィジュアルの点では、上限の位置関係の使い方や動きの表現などに工夫がある。木枠みたいなセットの1階部分と2階部分の立ち位置の違いで人間関係の変化や緊張感を表すような演出が多い。2階の狭い通路でロチェスターとジェーンがすれ違うところなどは、2人の接近と緊張をうまく表している。窓などは一切ないので、窓を開ける場面などは役者が窓枠を持って表現している。ジェーンが移動をする時は1階部分が使われ、キャストがみんなで1階に並んで移動経路の地名を言いながら足踏みすることで動きを表現する演出になっており、これは原作とはかなり違う表現方法だ。また、上から何かが吊り下がってくるという演出も多く、ジェーンの悪夢などの場面で上から灯りがたくさん降りてくるところとか、着替えの場面で上から服が降りてくるところなども面白い。わりとセットがシンプルなわりに火の使い方はけっこう大胆で、ジェーンが火の中ではしごを移動する場面などは印象的だ。

 音の使い方にも特徴があり、ジェーンの心情とか物語の状況のかなりの部分が舞台上にセットされた生演奏のバンドを従えたシンガー(バーサ役も演じているメラニー・マーシャル)による歌で表現されるようになっている。終盤でナールズ・バークリーの「クレイジー」がかなり効果的に使われているのが良かった。また、効果音の使い方もかなり現代的で、突然大音量の音が使われたりする。全体的にちょっと現代音楽っぽい音風景になっている。