とてもよくできた鋭いプロダクション~メトロポリタンオペラ『マハゴニー市の興亡』(配信)

 メトロポリタンオペラの配信で『マハゴニー市の興亡』を見た。ブレヒトとクルト・ヴァイルが組んだ有名作で、日本でも4年前に横浜で上演されている。これは1979年にジョン・デクスターが演出したものである。なんでもこの作品は1970年代までアメリカで上演されたことがなかったそうだ。www.metopera.org

 大変しっかりしたプロダクションである。美術は1930年代っぽい感じで、統一感のある色調で娼婦のジェニー(テレサ・ストラータス)の衣装の色みを際立たせてるようにしている。台本の鋭い諷刺を生かしているのはもちろん、笑うところもたくさんあり、ハリケーンがマハゴニーを迂回する場面では背景に矢印を投影してハリケーンの移動ルートを見せていて、ここなどはけっこう可笑しい。ブレヒトとヴァイルの辛辣な諷刺は全く衰えを知らず、最近書かれた芝居だと言っても通用しそうなくらいキレがあるし、このプロダクションは台本の鋭さにきちんと向き合って正攻法でうまくまとめあげており、30年前の上演とは言っても今見ても十分面白い。あまり画質が良くなく、とくに暗い場面は70年代の映像なのでわりと見えづらかったりするのだけが残念だ。

 メトだけあって音楽は非常にきちんとしている。歌も演奏も全体的にシャープで良いのだが、とくにジェニーやベグビック(アストリッド・ヴァルナイ)が活躍していて、女性陣の存在感がある。ジェニーは下手すると平べったくなりそうなキャラクターなのだが、ストラータスはとても人間味があり、不本意ながらも資本主義と男性中心主義にどうにか適応して生き抜こうとしているジェニーを作り上げていて良かった。マハゴニーにやってきた男達の気を惹こうとするところでくるくる表情が変わるところもいいし、最後に処刑されたジミー(リチャード・キャシリー)の衣類を抱いて「アラバマ・ソング」を優しく歌うところにはさまざまな複雑な感情がこもっていて余韻がある。