大変シリアスでタイムリーな作品~東京芸術劇場『パレード』(ネタバレあり)

 東京芸術劇場でミュージカル『パレード』を見てきた。キャストが新型コロナウイルス感染症になるなどいろいろ大変なことになっていた舞台だが、とりあえず開演している。史実を扱ったもので、1910年代にアメリカ南部のジョージア州で起きたレオ・フランクの冤罪事件を扱ったものである。

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 主人公である北部生まれのユダヤ系レオ(石丸幹二)は勤勉一辺倒で、堅物すぎて妻ルシール(堀内敬子)ともあまり打ち解けられていないくらい真面目人間である。ところがある日突然、勤め先の少女が惨殺された事件の犯人として逮捕される。レオには全く身に覚えのないことだったのだが、当局の意向でユダヤ系だったレオが犯人に仕立て上げられる。公正とは言えない裁判で死刑を宣告されてしまうレオだったが…

 ミュージカルにしては大変シリアスな作品で、台詞がすぐに歌につながっていくなど、むしろオペラに近そうな話である。史実は知事から減刑を勝ち取り、希望が見えてきたところでレオが反ユダヤ主義的な暴徒に襲われて私刑にあうという大変ショッキングなもので、作品もこれに沿って描いている。この私刑の場面は最近のアメリ連邦議会議事堂襲撃を思わせるもので、かなりタイムリーだ。こんなジョージアで今はアフリカ系とユダヤ系の上院議員がいるとは、世の中はよくなった…とも言えるし、いまだにホロコースト否認論などがあることを考えると良くなっていないとも言える。

 美術が大変素晴らしく、後ろに大きな木が立っていて(ここだけちょっと『ゴドーを待ちながら』を思い出した)、照明を使ってそれを要所要所で引き立たせるようにしている。最後の場面はこれを(予想できると思うが)ショッキングに使っている。パレードの鮮やかな紙吹雪が床に落ちるとジョージアの野原の花になるという見立てもとても魅力がある。

 ひとつ少しだけ気になったのが、たまにちょっと日本語の詞が曲にうまくのっていないように思われるところがあったことだ。全くの予想なので見当違いかもしれないのだが、原曲の英詞が相当訳しにくいものなのでは…という気がした。シリアスな内容だし、キリスト教ユダヤ教に関する箇所がけっこうあり、ものによってはライムとかもありそうだと思ったので、そのへんが難しいのかもしれない。