トレヴァー・ナン監督『ジョーンの秘密』を見た。実在したソ連の協力者メリタ・ノーウッドの話にヒントを得た作品である。
物語は現代のイギリスでおばあさんになったジョーン(ジュディ・デンチ)が逮捕されるところから始まり、ソ連のスパイだったジョーンの過去を描くというものである。若きジョーン(ソフィー・クックソン)は1930年代にケンブリッジ大学に通って物理の学位を取得したが、この時にケンブリッジの共産主義者たちと親しくなる。やがて原爆開発計画であるチューブ・アロイズの助手となったジョーンは機密にアクセスできるようになり、その情報をソ連に流すよう、恋人や友人たちから迫られる。
豪華なキャストをそろえているわりには、あまりパッとしないセンチメンタルなお話である。史実のノーウッドはかなりガチの共産主義者でケンブリッジ出身者ではなく、恋愛絡みでスパイになったわけでもなかったらしいのだが、この映画はジョーンが共産主義者の恋人レオ(トム・ヒューズ)に利用されてスパイになる一方、完璧とはいえないにせよ一応ちゃんと自分の科学者としての知性を尊重してくれるチューブ・アロイズの上司マックス(スティーヴン・キャンベル・ムーア)にも惹かれるジョーンの恋模様が中心だ。恋愛、学業、共産主義が絡んだスパイものというと『アナザー・カントリー』があり、あれは多少センチメンタルなところはあってもキレのある非常に面白い作品だったと思うのだが、それに比べると『ジョーンの秘密』はレオの本性が見え見えのわりにマックスが良い人すぎて展開が甘いし、ジュディ・デンチの起用もあんまり生きていない。もうちょっと甘ったるくないお話にしたほうがよかったのではと思う。