悪くはないのだが、ちょっとノスタルジックかなぁ~Being Mr Wickham (配信)

 シアター・ロイヤル・ベリー・セント・エドマンズの配信でBeing Mr Wickham を見た。名作と名高い1995年のBBC版『高慢と偏見』でウィッカムを演じたエイドリアン・ルキスが60歳になったウィッカムを演じる一人芝居である。ルキスがキャサリンカーゾンと作ったもので、1時間くらいのお芝居にQ&Aがついている。

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 60歳の誕生日に妻のリディアの機嫌を損ねたウィッカムが、ひとりでお酒を飲みながら過去のことを回想するというモノローグの芝居である。だいたい原作で示唆されている雰囲気に沿って、ウィッカムはリディアと別れておらず、イギリスに住んでいて、けっこう上品な感じのイケてるおじさまになっている。子供の時からのダーシーとのライバル関係とか、劇場でバイロンを見かけたこととか、おじちゃまになったウィッカムがいろいろ面白い話をしてくれるという感じのお芝居だ。どうも芝居が始まる前からけっこうきこし召しているような感じで、芝居の間もお酒を片手にたまに滑舌が悪くなる感じで、そこはまあウィッカムである。

 まあ面白いことは面白いのだが、個人的にはけっこう好みとは違った。まず、私のウィッカム解釈とはちょっと合わないような気がする。このウィッカムバイロン的ヒーローに憧れているみたいだし、ダーシーとのライバル関係や財産がなくても生き残ろうとする野心のあり方が明確で、けっこう行動の動機がわかる感じがする。どのくらい話の内容が信用できるかどうかはともかく、ワルでも人間味があるウィッカムなのだが、私はもうちょっとウィッカムサイコパス風味に作るほうが好きである(ウィッカムは英文学のキャノンの中でもかなり現代人が言うサイコパスに近いと思う)。もちろん人間味のあるワルのウィッカムが好きだという人のほうがずっと多数派だろうからこういう芝居ができるのだろうが…

 あともうひとつ思ったのは、ちょっとノスタルジックすぎやしないかな…ということだ。たしかにBBCの『高慢と偏見』はテレビドラマ史上に残る傑作なのであの続編を何らかの形で作りたいというのはわかるし、そこでウィッカムがおじちゃまになったところを芝居で、というのは理解できる。とくにこういう新型コロナウイルス流行で一人芝居くらいしか新作が上演できないとあれば、こういう企画が出てくるのは自然だろう。しかしながら、25年前の作品を懐かしんですごくよくできた二次創作みたいな芝居を作るよりは、全く別の翻案を新解釈で作ったほうがいいような気がする。