Call Me Maybe~上海話劇芸術中心『ヘンリー五世』(配信)

 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと上海話劇芸術中心の『ヘンリー五世』を学会員のみの配信で見た。2019年のオーウェン・ホースリー演出による上演を撮ったものだが、初演は2016年で、この時が中国語による中国でのプロによる『ヘンリー五世』初演だったそうだ(『ヘンリー五世』は英語圏以外では全然人気が無い)。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーシェイクスピアを中国語に翻訳するフォリオ・トランスレーション・プロジェクトの一環である。

 

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 現代が舞台で、男優8名、女優8名だけでの上演である。このため、わりと女優が男性役を演じており、複数の役を演じる役者もいる。台本は2時間くらいでおさまるよう、けっこうカットしてあるように思った。服装は現代のもので、セットは真ん中に障子のような透明の格子のついた大きな箱があるだけで、他はあまり装置もない。場面転換の際にはこの箱が回転し、冒頭の交渉の場面などはこの箱の中で展開する(箱の中はやたら音がきちんと入るのに舞台の他の箇所では音がぼやっとするところがあり、やや音の拾い方に難がある)。この箱の面のうちひとつには上の部分を開くことができる扉がついていて、ハーフラーの開城要求の場面などでは箱の中から扉を開けてヘンリー五世(蘭海蒙)たちが呼びかけるという演出になっている。

 プロによる初演用の演出(これは再演だが)ということでおそらく上海の観客が馴染んでいる芝居ではないためか、セットなどは現代的だがわりと正攻法でわかりやすく、若き王の努力をストレートに描いている。キャサリン(范祎琳)も完全に若い現代女性で、初登場するところではカーリー・レイ・ジェプセンの"Call Me Maybe"がかかってお買い物から帰ってきたらしいオシャレないでたちで出てくるし、侍女のアリス(馬青利)はスケジュールとかスタイリングを担当する若いアシスタントといった感じだ(ここのもともとフランス語の台詞はフランス語でやっている)。最後の求婚の場面は、最初は政略結婚に非常にぶすっとしていたキャサリンがだんだんヘンリーとうまがあうようになって自分からキスするなど、若者同士の面白おかしい求愛になっている。