SNS時代の不条理劇~シス・カンパニー『友達』(配信)

 シス・カンパニー『友達』を有料配信で見た。加藤拓也演出で、新国立劇場で上演されたものである。

siscompany.com

 ひとりで住んでいる男(鈴木浩介)のところに急に「友達」と称する見知らぬ9人家族が押しかけてきて、その家を乗っ取ってしまうという不条理なブラックコメディである。大変有名な戯曲で、私も学生時代に一度見たことがある。このプロダクションは舞台中央の下向き(つまり奈落につながる方向)にドアがあるというちょっと変わったセットで、そこから命綱みたいなものをつけた警官などが上がってきたり、周りに靴を並べて玄関のようにしたりしている。後ろにぼんやり町並みのような背景があるのだが、最後はそこがライトアップされて何の変哲も無い夜の町になるところが、舞台で起こっている大変な出来事との対比になってちょっと怖い。

 学生時代に見た時は女性キャラクターがけっこう現代風というかオシャレなのに図々しい感じがして若干のミソジニーを感じたのだが、こちらのプロダクションはけっこう全員、着ているものがちょっともっさりしている感じで、一番オシャレっぽい次女(有村架純)も比較的大人しく、あまりお金のかかっていなそうな服装だ。全体として日本の経済格差が大きくなり、ミドルクラスも貧しくなってきているので、ひとりで部屋に住んでいてそこそこゆとりのありそうな暮らしをしている主人公と、庶民的な感じの一家を対比しようとしているのかもしれない。台本じたいに少し女性に対する恐怖みたいなものがあるとも言えるのだが、この演出はお父さん(山崎一)がかなり高圧的というか、一見、人当たりが良いのだが、実は民主主義や多数決を口実に権力を振るおうとする怖い家父長で、あんまり女性嫌悪が気にならない。民主的なフリをしつつ、数の力で押し切ってもとの住人である男を追い詰めていく様子は、一見よくわからないような形で行われるマイノリティに対する抑圧を思わせる。

 庶民的な一家がちょっと余裕のありそうなマイノリティの男を追い詰めていくという展開に見えるところもあるせいで、かなり現代的な演出に思えた。台本がちょっと変わっており、携帯電話が出てきたりしているせいで、ずいぶんとインターネットやSNSの時代の不条理劇になっているような気がした。最初のいきなり家族が押しかけてくるところといい、変な理屈をこねて主人公を追い詰めていくお父さんといい、なんだかちょっとネットの嫌がらせみたいだな…と思って見ていた。嫌がらせにあってSNSをやめる人というのはけっこういるのだが、主人公はちょっとそういう感じがする。