台本は良いが、歌がちょっと…『October Skyー遠い空の向こうに』

 ミュージカル『October Skyー遠い空の向こうに』を見てきた。おおもとの原作は、のちにNASAで働くようになったホーマー・ヒッカム・ジュニアの自伝的小説である。これが1999年に映画化されており、この映画を舞台化したのが今回、日本で上演されているミュージカルである。

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 1957年のスプートニクショックをきっかけに、ウェストヴァージニア州の炭鉱町であるコールウッドで暮らす高校生のホーマー(甲斐翔真)はアマチュアロケット製作に興味を持つようになる。友達のロイ(阿部顕嵐)とオデル(井澤巧麻)、いじめられっ子だが科学に強いクエンティン(福崎那由他)の4人はロケットを飛ばすことに熱中し、だんだん上達するが、ホーマーの父で炭鉱の安全面を監督しているジョン(栗原英雄)はこれを全くよく思っていない。自分の仕事を継がせたいジョンとホーマーの間には大きなわだかまりができてしまうが…

 もともとの映画は大変よくできた青春もので、『リトル・ダンサー』+『ドリーム』みたいな感じの作品である。経済的にあまりうまくいっていない鉱山の町を舞台に、ジェンダー規範(コールウッドではガリ勉は男らしくないとされている)や階級規範に挑戦しようとする少年たちを爽やかに描いている一方、科学の楽しさを伝える物語でもある。ミュージカル版も基本的には映画に沿っており、不景気に苦しむアメリカの田舎町をシビアに描きつつ、後味の良いお話に仕立て上げている。

 ミュージカルだというところ以外は映画と舞台の違いはあまり無いと思うのだが、ミュージカル化されたせいでジョンが問題ある父親だということが舞台でより生々しく描かれていると思った。歌でジョンとホーマー、またジョンの妻であるエルシー(朴璐美)の感情のやりとりが盛り上げられており、たぶんそのせいでよりジョンが非常に抑圧的で気難しい父親に見える。ジョンはブルーカラー色の強い炭鉱町で生まれ育ったのだが、現在は監督なので中間管理職である。坑夫たちよりは責任ある立場だが、会社からすると下っ端で、調整と安全管理に気を遣わざるを得ない苦しい立場にある。こういう中途半端な立場のせいで余計に気負ってしまい、町の人々のジェンダー規範や階級規範をより強く内面化しているフシがある。ジョンの気難しさには理解できるところがあるとはいえ、ジョンのホーマーに対する態度はかなりひどいもので、舞台で見ると余計にきついところがある。

 台本や舞台のデザインはいいのだが、開幕したばかりのせいか、歌のほうは稽古不足なのではという気がした。ベテランはともかく、若手はわりと不安定だ。とくに序盤はけっこう歌が固かったと思う。