いろいろと問題が…『ディア・エヴァン・ハンセン』(ネタバレあり)

 『ディア・エヴァン・ハンセン』を見てきた。舞台でヒットしたミュージカルの映画化である。

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 不安障害を抱えて友達もほとんどいない高校生のエヴァン(ベン・プラット)は、ひょんなことからやはり友達のいないコナー(コルトン・ライアン)と少しだけ言葉を交わし、その時にセラピストのアドバイスで書いていた自分あての手紙をとられてしまう。ところがコナーはその直後に自殺してしまう。死亡時のコナーがエヴァンの手紙を持っていたせいで、エヴァンは故人の親友だったと勘違いされ、そのままウソをつき続けることになるが…

 全体的にいろいろアラの多い作品である。舞台は未見なのだが、たぶんかなり舞台に特化していると思われる演出を映画にしたせいなのか、なんとなく編集がすっきりしない印象を受ける。あと、これは予告の時点から言われていたことなのだが、エヴァンを演じるベン・プラットが高校生に見えない。これはたぶんプラット自身の責任ではない…というか、プラットは舞台でこの役を最初に演じて高く評価されていたらしいのだが、初演は2015年とかなり前だし、クロースアップがなくてかなりお客さんの想像で補える舞台と映画は違う。プラットは撮影時は既に26歳だったということで、舞台なら別におかしくは見えないと思うのだが、映画だと高校を成人男性が歩いているみたいな感じに見える。周りの役者陣もわりと20代なのにそこまで違和感はなく、プラットだけ年をとっているみたいな印象を与えるので(そのせいでケイトリン・デヴァー演じるゾーイがやたら年上の男性に恋してるみたいに見える)、たぶんメイクとか衣装とかのチョイスがあんまり良くないのと、そもそも不安障害を抱えて疲れているという役柄だと老けて見えるというのもあるのかもしれないと思う。

 しかしながらキャストよりも問題なのは物語だと思う。オンライン文化などを取り入れた現代的なプロットなのだが、オチがずいぶん強引だ(話じたいは有吉佐和子の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に似た発想だが、あっちのほうがまだもうちょっとうまく話を処理している)。エヴァンがあんなことをしたからには、リンゴ果樹園の復興計画はつぶれるだろうと思うのになぜか果樹園がちゃんとできてしまっているのがおかしい。エヴァン自身もものすごいオンラインでの嫌がらせとかを受けると思うし、もともとメンタルヘルスの問題を抱えていたエヴァンがそういう嫌がらせに耐えられるかというと疑問だ。エヴァンが自殺してしまうとか、そうでなくても病気が悪化して入院するとか、追われるように引っ越すみたいなバッドエンドにはできないからしょうがないのだろうが、いくらなんでも結末が甘ったるいと思った。

 あとひとつ気になったのはコナーのお気に入りの本にカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』が入っていることだ。なんか「繊細でうまく周りに適応できない人はヴォネガットを読みます」みたいなアメリカ映画によくあるステレオタイプはもうやめたほうがいいんじゃないかと思う。これは自殺やメンタルヘルスの問題は誰にでも起こりうるという話なのに(アラナのエピソードはそういうメッセージだと思う)、そこにヴォネガットが出てくると「やっぱりコナーは繊細な人で…」みたいに見えてしまう。別に『オリエント急行殺人事件』とか『はらぺこあおむし』とか『比類なきジーヴズ』とかを読むような人だって人生がつらくなったら自殺を考えたりすることもあるだろうに…と思って調べたら、どうも本作の小説版の該当箇所にはヴォネガットは入ってなかったらしい。映画でわざわざ付け加えたのか…