人生をメチャクチャにする素晴らしき芝居~『だからビリーは東京で』

 蓬莱竜太作・演出の『だからビリーは東京で』を東京芸術劇場で見てきた。

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 たまたまチケットを譲ってもらってミュージカル『ビリー・エリオット』を見た大学生の凜太朗(名村辰)が舞台を始めたいと思って劇団に入るが、その劇団はなかなか変わった難解な芝居を作るところで、さらに新型コロナまで発生して凜太朗は舞台に立つ機会をもらえず…という様子を描いた作品である。これと並行して劇団員たちのそれぞれの人生模様がモノローグやフラッシュバックなどを入れつつ、ユーモアもまじえて語られる。主に座付き作家である能見(津村知与支)の実家の工場にある稽古場で話が展開する。

 凜太朗は『ビリー・エリオット』とは比べものにならない変な芝居に出ることになるわ、最初の出演作は中止になるわ、さらに新型コロナで公演ができないうちに劇団が解散の危機に陥るわ、とにかく役者としては不運なのだが、それなのにポジティヴに芝居を愛し、役者としてめざましく成長する。芝居なんかにハマらなければ凜太朗はもっとお金のもうかる仕事につけたかもしれないし、ガールフレンドとやたら複雑な関係になって悩むこともなかったかもしれない。つまり芝居は凜太朗の人生をメチャクチャにしたのだが、この作品を見ていると本当に芝居に出会って良かった、芝居に人生をメチャクチャにされて良かった、と演劇関係の仕事をしている者としては思ってしまう。ふとしたことからある作品と出会ってそのまま人生の選択につながるというのは、凜太朗の場合は劇的な形で起こったが、たぶん舞台芸術にかかわる人生を送る者にはここまで劇的な形ではなくてもなんだか曖昧にうっすらとでも起こっているのだと思う。そういう人生をあまり湿っぽくならずにとてもポジティヴに描いた作品だ。