出血を率直に~『セイント・フランシス』(試写、ネタバレ注意)

 アレックス・トンプソン監督『セイント・フランシス』を試写で見た。ケリー・オサリヴァンが脚本で、主役のブリジットも演じている。

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 30代半ばのブリジットはだいぶ年下の付き合っているのか付き合っていないのかもよくわからないようなボーイフレンドとの関係で妊娠し、中絶をしてから不正出血みたいな症状があってあんまり具合が良くない。ブリジットはレズビアンカップルに育てられている小さなフランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)の子守として働き始める。フランシスの両親はラティンクスで第2子を生んだばかりで産後鬱気味のマヤ(チャリン・アルヴァレス)と、これまたストレスがたまり気味のアフリカ系のアニー(リリー・モジェクウ)というマルチレイシャルカップルで、いろいろ問題をかかえていた。

 とにかくブリジットがかなりずぼらな女性で、それを非難がましくなく描いているのがよい。ブリジットのずぼらぶりは生理とか不正出血みたいなあまり映画では率直に語られることの少ない体調の問題を通して描かれているのだが、たぶんこの手の日常生活における出血を扱った映像描写としては、私が今まで見たことのある中でもかなり上手なほうだ。この映画に出てくる出血というのは、ゴミを捨て忘れたとかコーヒーをぶちまけたみたいなよくある日常生活の失敗と同じような感じで描かれており(体調不良がかかわるのでもうちょっと困ったことではあるのだが)、神秘化されていなくてかなりリアルである。まずはブリジットが生理の血でボーイフレンドのベッドを汚してしまうところから始まり、その後も不正出血とか、タンポンをトイレに詰まらせるとか、いろんなところで出血関係のトラブルに出会ってとんでもなくきまりのわるい状況に陥る(こういうトラブルについて、身に覚えのある人はけっこういるのではないかと思う)。ただしマヤやアニーをはじめとする周りの人たちはまあそういうこともあるでしょみたいな感じであんまり驚かず、ブリジットの体調に気を遣っている。さらに小さなフランシスも、レズビアンの両親の性教育がしっかりしている…というか女性ばかりの家庭なのもあって不自然に生理を隠したりしておらず、非常にオープンなところで育ったので、ブリジットの出血にびびったりしない(むしろ生理は隠すものだという感覚がないらしいので、ブリジットの血がついたパンツを見ておおっぴらに騒いでしまい、人のプライバシーについて騒いではいけないと親に注意されている)。中絶に対してもアニーは全く驚かず、ブリジットの体を心配する。この映画における生理とか中絶とか不正出血というのは、誰でも経験するような健康問題としてフラットに扱われている。

 この映画に出てくるメインキャラクターの女性たちはみんないろいろ問題を抱えているが、それでもとても人間味があり、欠点もあれば賢いところもある。大人が子どもとかかわることで人生の岐路に…みたいな映画はよくあってちょっと食傷気味ではあるのだが、その手の映画としてはこの映画はあまり定型に陥っていなくて新鮮で、『カモン カモン』の若い女性版みたいな感じだ。ただ、オサリヴァン自身がグレタ・ガーウィグの影響を公言しているというのもあってけっこう『フランシス・ハ』や『レディ・バード 』に似た味わいではある。新しく出てきた期待できる才能だと思うので、今後もっと独自性のある脚本を書いてどんどん成熟した映画を作ってほしいなと思った。