犬は無事~『ヒューマン・ボイス』(ネタバレあり)

 ペドロ・アルモドバルの短編映画『ヒューマン・ボイス』を見てきた。ジャン・コクトーの戯曲の翻案である。恋人に出て行かれた女性(ティルダ・スウィントン)が恋人と電話で話すところを撮った30分くらいの映画である。

 戯曲原作だけあってものすごく舞台劇っぽい作品で、1人芝居を撮っているという感じの映画である。しかもこの映画はオシャレなアパートの部屋のセットを組んで、そのセットを上から撮るなど、舞台劇を撮っているかのような撮影をわざとやっている。しかしながら最後でヒロインが犬を連れて建物の外に出て行くようになっており、ここはかなり映画っぽい…というか、いかにも舞台劇風なのに最後の最後に舞台ではできないことをやっており、ここは非常に工夫があると思った。

 なお、ヒロインは恋人の犬をまだ飼っていて(犬も見捨てるとはひどい恋人である)、この犬がかなり長い間画面に映っている。この犬がティルダ様の共演者にふさわしい芸達者である。途中で犬が割れた陶磁器の破片の上に座るところがあってちょっとぎょっとしたのだが(実際に尖った破片の上に座っているわけではないだろうし、これはヒロインの破壊的な衝動や、飼い主に捨てられた苦痛を犬も感じ取っているということだろう)、最後まで無事なので良かった。