大変苦手なタイプの上演だった~ナショナル・シアター・ライブ『かもめ』

 ナショナル・シアター・ライブ『かもめ』を見てきた。ジェイミー・ロイド演出、2022年の上演を撮影したものである。

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 コルクの箱みたいなセットに緑っぽい椅子が並んでいるだけで、それ以外のものは一切ない。役者はほぼ全員舞台上におり、椅子を下げたり動かしたりすることで場面に出ているか出ていないかが区別されたりする。役者はほとんど動かず、椅子の上で話すか、たまに立って歩いてもかなり動きは少ない。衣装は現代の部屋着みたいな感じで、設定も完全に現代であり、台詞にブログやネット検索の話が出てくる。

 トレーラーのヴィジュアルからして好きではない予感がしたのだが、やはり極めて苦手なタイプの上演だった。とにかく、役者が動かないのが好きではない…というか、人々の人生の淀みを役者を椅子に座らせて動かさないことで表現するというのは、私の感覚では大変、安易なコンセプトである。人間の中には、人生が停滞している時ほど焦ってせかせか無駄にエネルギーを消費する人もいるし、むしろそういう無駄な動きから人生の厳しさが浮かび上がるものでは…という気がする。人生が停滞すると動かなくなる人もいるとは思うのだが、基本的にこの芝居のキャラクターにはあまりそういう感じの人がおらず、そういう演じ方にして効果があがるのはコースチャだけではないかという気がする。

 また、たぶん一度芝居を見るか、読んだことがないと話がわからないような演出なのもあんまり良くない。台本がかなりカットされている上、場面転換とか出入りなどが一切ないので、『かもめ』を初めて見る人はかなりわかりにくいだろうと思う。けっこうハードルの高い演出である。

 役者陣は概ね良かった。『ティーンエイジ・ディック』のダニエル・モンクスをコースチャ役で見られたのは嬉しいし、このコースチャはいつもぶすっとしていてけっこう良かった。ニーナ役のエミリア・クラークとイリーナ役のインディラ・ヴァルマも良い。ボリスはコースチャより年上にすることが多いと思うのだが、この演出のトム・リース・ハリーズ演じるボリスはコースチャとほとんど同じくらいの年で、若くてキラキラの才人なのも良いと思う。