あなたそんなに古代地中海世界のこと研究してたっけ?~『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(ネタバレあり)

 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を見てきた。あまりインディ・ジョーンズに思い入れが無いのだが、先日『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』を見に行って記憶にあるよりは面白かったのと、フィービー・ウォーラー=ブリッジバーバラ・スタンウィック風な感じで出てくるというので見に行ってきた。

www.youtube.com

 舞台は1969年のアメリカである。退職を控えたインディ(ハリソン・フォード)は、若い時にナチスから奪ったアンティキティラ島の機械のことで名付け子のヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)の訪問を受ける。ところが元ナチスのフォラー(マッツ・ミケルセン)もアンティキティラ島の機械を狙っていた。

 とくに下調べもせずに見に行ったところ、「運命のダイヤル」なるものがアンティキティラ島の機械で驚いた。しかもけっこうちゃんと古代地中海世界の話になったのでさらにビックリした…のだが、オチで一番気になったのが、「あなたそんなに古代地中海世界のこと研究してたっけ?」ということである。少なくとも映画シリーズでは(テレビ版は見ていないのだが)そんなに古代ギリシア・ローマについて情熱的かつ専門的に研究していたとは思えない…のだが、なんかもともとの専門はそのへんだったのだろうか…よく考えると、所謂オリエント地域であのオチにすると白人酋長ものみたいで今の感覚だとおかしいので古典地中海世界になったのだろうとは思うのだが、最後に急にインディが真面目な(研究者が真面目だというのは多少おかしいということだが)研究者っぽくなったのは唐突だと思う。

 別につまらない映画ではないのだが、ツッコミ所はたくさんある。序盤のヘレナの振る舞いがいくらなんでも不自然すぎでは…とか、出てきて死ぬだけみたいなアントニオ・バンデラスの役はどうなのか…とか、脚本にはいろいろ強引なところが見受けられる。また、これから期末試験という一番大事な仕事があるのに(インディの発言によるとまだ試験問題を作ってすらいないようではないか)、インディの引退パーティをするハンターカレッジの人たちはどうかしている。相変わらずインディが全く保全に関心を持っておらず、大学のアーカイヴの棚(しかも文書だけじゃなくて物品が入っていると思われる)を倒して逃げようとするところは悲鳴をあげたくなった。

 私がお目当てにしていたフィービー・ウォーラー=ブリッジなのだが、どういうところをバーバラ・スタンウィック風にしたかったかはわかった…ものの、この種の冒険ものでロマンス要素なしにバーバラ・スタンウィック風にするのはかなりキツいと思う。ヘレナは詐欺師風のちょっとイヤな女でもあるので、『レディ・イヴ』のヒロインっぽくしたかったのはよくわかるし、頑張ってはいると思う。ただ、たぶん問題はバーバラ・スタンウィック風のセクシーさというのは関係性というか、相手とのケミストリによって生じるものなのに、そういう要素がこの作品には無いということである。別に何にでもロマンスを入れなければいけないわけではないが、バーバラ・スタンウィック風の女を出したいならたぶんロマンスがあったほうがいい。基本的にヘレナはインディの名付け子で娘分なのでロマンスはないし(あったら気味悪い)、他にイイ雰囲気になる男性や女性が出てくるわけでもないので(色仕掛けで騙した相手はいたが)、せっかくのバーバラ・スタンウィック風のお色気が虚空に無駄打ちされているような気がした。

 なお、この作品の最後にはなぜか『ウーマン・トーキング 私たちの選択』の終盤とほぼ同じ展開がある。けっこう感じの悪い展開で別に流行ってほしいような展開ではないのだが、流行っているのだろうか…しかしながら全然一般ウケしない深刻なアート映画と、ビッグバジェットフランチャイズ大作にそっくりの展開があるというのはちょっと面白い。