女性組合活動家に対する脅迫を真面目に扱った作品~『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』(試写)

 ジャン=ポール・サロメ監督『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』を試写で見た。実在するアイルランドの組合活動家モーリーン・カーニーを主人公にした作品である。

 モーリーン(イザベル・ユペール)はフランスの総合原子力企業であるアレバのフランス民主労働組合連盟代表をつとめていたが、内部告発によりフランスの原発が中国に売られそうだという話を知る。国内の雇用がなくなって大量の失業者が出ることを怖れたモーリーンはこれに反対する活動を始めるが、だんだん脅迫を受けるようになり、さらには自宅に侵入され陰惨な性的暴行を受けることになる。ところが警察はモーリーンの証言を疑い、モーリーンが事件をでっちあげたと言い始める。

 序盤は企業スリラーみたいな感じなのだが、終盤はびっくりするような悲惨な展開だ。モーリーンは所謂性暴力の「良い被害者」ではないためレイプ事件がでっちあげ扱いされ、ひどいセカンドレイプを受ける。このイザベル・ユペールが模範的でない性暴力被害者を演じるというのは『エル』でもあったが、むしろ演技はそっちよりいいのでは…と思った。モーリーンはちょっとエキセントリックなところがあり、全然美化されていない欠点も弱さもたくさんある女性だが、そのぶん人間的な奥行きがある。非常に真面目な作品で、ユペールの演技だけで見る価値はある。

 ただ、全体的にちょっとユペールの演技力に寄りかかりすぎていて、背景にある陰謀などは掘り下げておらず、スリラーとしては少々地味という印象は受ける。また、より大きい問題として原発の是非とか技術移転についてもほぼ触れられておらず、まあそれがテーマの話でないからというのはあるのだが、わりと扱っている範囲が狭い作品だという印象は受ける。また、私がけっこう気になったのは、カーニーはアイルランド人なのにフランス人のユペールが演じているということだ。ユペールがヒロインに欲しかったのはわかるが、最近の史実に基づいた話なんだからアイルランド人の女優を雇ったほうがいいのでは…という気がした。アイルランド人がフランスで組合活動やって告発をしたっていうのが、EUのある種のダイナミックな展開を現代的に表しているのではという気もするのだが、そのへんがこの映画には無い。