演出は良かったが、台本はマクドナーとしては若書きっぽい〜『The Beauty Queen of Leenane』(ネタバレあり)

 マーティン・マクドナーThe Beauty Queen of Leenane』をシアター風姿花伝で見てきた。演出・翻訳は小川絵梨子がつとめている。コネマラ三部作のひとつで、戯曲じたいは昔読んだことがあったが見るのは今回が初めてだった(けっこう前に読んだので戯曲の内容をかなり忘れており、見始めてからコネマラ三部作のもうひとつの作品『コネマラの骸骨』とごっちゃにしてたのに気付いた)。

 舞台は90年代頃のアイルランドの田舎の村、リナーンである。主人公のモーリーン(那須佐代子)は老母マグ(鷲尾真知子)のめんどうを見ているが、2人は非常に不仲で憎みあっている。モーリーンがイギリスから一時帰国してきたパト(吉原光夫)と親しくなったせいで2人の暮らしに変化が訪れるが…

 セットはあまりきれいとはいえないキッチン兼客間である。中央の客席通路真ん中あたりに枠だけのドアが設置されていて、このドアを通って近所のレイ(内藤栄一)などがやってくる。舞台奥にドアがある。

 演出は母と娘の確執を細やかに描き出すものでとても良かった。モーリーンはたぶん凄いブス作りでもいけないし、美人でもいけない、「ビミョーにぱっとしない」みたいなわかりづらい雰囲気の女性だと思うのだが、那須モーリーンはそのへんをとてもうまくこなしていて、表情によってはとても繊細で魅力的に見えることもあるのだがふだんはブスっとしてて感じが悪い女性を微妙なニュアンスで表現していたと思う。台本のブラックユーモアを生かした笑える箇所もたくさんある。

 ただ、これはマクドナーの作品の中でも初期のもので、ちょっと台本自体がわかりやすすぎる気もした。モーリーンが夢みたいな調子でパトを見送った時のことを独白する箇所で、既に観客のほとんどはこれは現実ではなくモーリーンの妄想だろうと推測できるので、最後の場面であそこまでモーリーンの狂気を明確に強調しないほうがいいのではという気がした。レイがパトから手紙かなんかを持ってきて、それが「お元気でお過ごしください」的なそっけない文面だった→レイがボールの話をする、というくらいの場面展開で十分なんじゃないだろうか。

 あと、演出は行き届いていたのだが、タイトル及びタイトルに関わる台詞の訳し方がちょっとどうかなーという気がした。「美しきリナーンの女王」などと訳されていたのだが、原題のBeauty Queenというのはミスコンの女王とかのことなので、「リナーン一の美女」あるいは「ミス・リナーン」みたいな、ちょっと安っぽい言い方に訳したほうがいいんじゃないかという気がする。

 ちなみにちょっと前に文春にこの芝居のレビューがのったのだが、このレビューにある「処女による赤裸々な性の描写が見もの」っていうのは大間違いである。ネタバレになるので詳しくは言えないのだが、この作品は赤裸々な性の描写とかがあってはむしろ困るというか、そのへんをぼかしたり、なんとなくリアリティがないように表現することでプロットに対する観客の興味を持続させるのが重要なので、こういう芝居だと思って見に行くとむしろ混乱すると思う。