とてもよくできた戯曲だが、私は比較的苦手~『ボーイズ・イン・ザ・バンド ~真夜中のパーティー~』

 白井晃演出『ボーイズ・イン・ザ・バンド ~真夜中のパーティー~』を渋谷の文化村で見てきた。マート・クローリーの有名作で、映画にもなっている。新型コロナウイルス対策で席を減らすために一度全席払い戻しになったという大変な経過で上演にこぎ着けたものである。

 舞台は60年代末くらいのニューヨークで、登場人物は1人をのぞいて全員、ゲイの男性である。ハロルド(鈴木浩介)の誕生日を祝うべく、マイケル(安田顕)が自宅でパーティの準備をしているとところから始まり、友人たちが続々と集まってくるが、ひょんなことからストレートであるマイケルの友人アラン(大谷亮平)がやってきていろいろなトラブルが…という物語だ。

 とても緊密に作られた戯曲で、登場人物の描き分けなどもしっかりしたよくできた作品だ。60年代末の戯曲にしてはかなり登場人物にバラエティがある。民族という点ではハロルドはユダヤ系、バーナード(渡部豪太)はアフリカ系だし、マイケルはカトリックで名前からしアイルランド系ではないかと思う。エモリー(浅利陽介)はとてもキャンピーでオネエを自称している一方、ハンク(川久保拓司)はバイセクシュアルで妻と別れようとしているなど、それぞれかなり違うバックグラウンドを持った人物がちゃんとキャラの立った形で出てくる。

 このプロダクションはセットが大変よく作り込まれており、2階建てで見た目が綺麗である一方、そこそこ生活感もある感じになっている。1階部分は客間で右奥にキッチンがあり、左の階段から2階にのぼれるようになっていて、寝室とバスルームがある。2階の大きな窓からはマンハッタンの風景が見えるようになっているのだが、ラストではこの2階が現実の渋谷に接続する大変魅力的な演出がある。役者陣のセット内での動きもしっかりしていて、とくに左の階段の使い方が良かった。

 そういうわけで大変よくできたプロダクションだと思うのだが、正直、好みかというとちょっとよくわからない…というのも、前半は笑うところもいくぶんあるのだが、終盤は私が苦手なタイプのめちゃめちゃ深刻なアメリカ演劇になるのである。私はこういう、いろんな人が集まってどんどん事態が深刻になっていく様子をとくにブラックユーモアもなく提示するというアメリカの戯曲があまり得意ではない(『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』も苦手だった)。この戯曲の終盤、マイケルがみんなに電話をかけさせようとするあたりの行き詰まる展開は本当によく書けていると思うが、見ていてけっこういたたまれなかった。ただ、得意か苦手かは別として、この戯曲は本当に王道のアメリカ演劇なんだろうなと思う。