いい映画だが、好みかというと…『PERFECT DAYS』(試写)

 ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』を試写で見た。

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 平山(役所広司)は東京都の公衆トイレ清掃員として、毎日規則正しく出勤し、責任感を持ってトイレをきれいに保っている。一人暮らしで非常に無口な平山だが、70年代頃の洋楽とか、読書とか、植物とか、写真とか、いろいろ趣味があり、充実した毎日を送っている。そんな平山のところにしばらく会っていなかった姪のニコ(中野有紗)が転がり込んでくる。

 大変きれいな映画だし、ほとんどしゃべらないのにものすごい存在感で、中年男性なのに少年みたいな役所広司の演技はいいし、たまにちょっと笑えるところもあってつまらない映画ではない…のだが、「日本のトイレがきれいだ」ということから始まる映画なのにちょっと引っかかった。日本のトイレがきれいなのはたぶん低賃金でもきちんとした仕事ぶりやサービスが当然とされる風潮に関連していて、私はそういう過剰サービスを要求するのは問題だと思っているのだが、この映画はそんなに高給はもらっていないと思われるのにものすごく責任感を持って仕事をしている平山を美化しているきらいがある気がする。別にこういうふうに自分の仕事に誇りをもち、専門性を意識して仕事をしている人は実際にいるのだろうし、そういう人は非常に尊敬できると思うが、日本のトイレがきれいなのはそれだけで終わる話ではないだろうとも思うので、だいぶ描いていないものがあるなぁという気はした。

 また、ガールズバーで働いているアヤ(アオイヤマダ)はちょっと都合良い日本女性キャラじゃないかな…という気もした。アヤは平山の同僚でもある若い客のタカシ(柄本時生)を手玉にとっているのだが、一方で平山がかけているパティ・スミスのテープに妙に興味を示し、最後にキスして去っていく。ここも含めて平山は自分からぐいぐい口説くのはしないのにやたら水商売の女性に気をつかわれる人みたいな役柄で、ちょっとそのへんもなんとなく理想化されているような気がした。