意外とシェイクスピアネタが多い歴史ものクィアロマンス~『Firebird ファイアバード』(ネタバレあり)

 『Firebird ファイアバード』を見た。

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 舞台は1970年代末、同性愛が非合法であったソ連支配下エストニアのタリンに近い空軍基地である。もう少しで除隊になるセルゲイ(トム・プライアー)は、同じく写真好きである赴任してきたパイロットのローマン(オレグ・ザゴロドニー)と趣味を通して親しくなる。ローマンはセルゲイが演劇の興味を持っているのを知って劇場で『火の鳥』を見せたり、演劇学校に願書を出すようすすめたりしていろいろ後押しするが、だんだん2人は接近して恋いに落ちる。しかしながら2人の仲がバレそうになり、ローマンはセルゲイを捨て、セルゲイは演劇学校に入る。ローマンは基地で働いていた女性軍人ルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)と結婚するが、セルゲイとローマンはよりを戻してしまい…

 実際にセルゲイにあたる人物であるセルゲイ・フェティソフが書いた自伝がもとになっている実話だそうで、何しろソ連時代が舞台ということでかなり悲惨な終わり方になる。あまり登場人物が死んで終わるクィアロマンスはそんなに好きになれないことが多いのだが、まあこれは実話だから仕方ないし、現在ロシアで行われている同性差別を批判するという点でもこういう映画が作られるのは意義があることである。セルゲイがお亡くなりになった後でエストニアでは同性婚が合法化されたそうで、高齢の同性愛者の記憶をきちんと記憶しておくという点でも、同性婚合法化に対する世論盛り上げを目指したという点でも、社会的に重要な作品だ。

 エストニアの話なのに全員英語を話しており、しかもキャストがイギリス人、エストニア人、ロシア人、ウクライナ人などからなっているのでけっこうみんな違う感じの(中東欧チックではあるが)アクセントなのがちょっと気になるところではあるのだが、主演2人の相性は大変良い。ロマンス描写から離れたところでも、ローマンの操縦機が途中で故障し、ギリギリで基地に戻って着陸しようとしたところで基地の設備がボロすぎて着陸用のネットみたいなやつが出ない…というような、妙にリアルな当時の社会主義国の事情を反映していると思われる描写があったりするのも面白い。シェイクスピアをはじめとする舞台ネタがけっこうふんだんに盛り込まれているのは舞台好きとしては嬉しいところだ。

 ただ、全体的にちょっと型にはまったメロドラマチックなロマンスになっているのは、実話とはいえどっかで見たような話だな…と思うところもある。途中のパーティでボニーMの「怪僧ラスプーチン」がかかるのだが、ここだけなんか音楽の趣味が違う気がしたし、こういう音楽にあわせて踊るのは当時のソ連でよくあったのだろうか…というのもわからなかった。また、最後に出てくる字幕について、年号が英語と日本語でズレてたような気がするのだが、これはちょっとあまり記憶が定かではないので、これから見る人がいてもし気付いたら教えてほしい。