お菓子をめぐるサクセスストーリー~『パリ・ブレスト〜夢をかなえたスイーツ〜』(試写)

 『パリ・ブレスト〜夢をかなえたスイーツ〜』を試写で見た。実在するパティシエであるヤジッド・イシュムラエンの人生に緩く基づいた作品である。

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 モロッコ系のヤジッド(リアド・ベライシュ)は母にネグレクトされてろくにかまってもらえずに育つ。まともな里親に巡り会ってそこでお菓子作りの楽しさに触れるが、その後も施設に入ったりして厳しい環境で暮らしていたが、どうにか高級店のキッチンにもぐりこんで修行し、だんだんパティシエとして頭角を現すようになる。挫折もしたがなんとか支援してくれる人も見つけ、念願の国別対抗パティシエコンテストに出場する。

 先日レビューを書いた『ラインゴールド』同様、移民の成功物語…なのだが、ヤジッドはより生育環境が悲惨で(里親はしっかりした人たちだが)、またちょっとばかり非行もあるがそんなに大変な犯罪をしているわけではなく、貧困やあまりお菓子作りなどに理解を示さない環境との戦いが大きな要素になる。施設に入っている間はいろいろウソをついたりごまかしたりして遠くの店まで修行に通っており、他の子にはガールフレンドに会いに行っているフリをして出かけるなど、苦労の連続だ。パティシエになっても野宿状態というお金のなさで、他のエピソードを見てもたぶん生育環境が貧しすぎたせいで里親以外に頼れる人がなく、調理を学ぶのが精一杯で、生活スキルみたいなものを見つける余裕がなかったのだろう…という感じがする。ネグレクトがひどかった実母とはあまり会いたくないもののまったく心配していないわけではないというような微妙な関係で、そのあたりもリアルである。

 出てくるデザートはどれも大変凝っていて美味しそうで、見るだけで楽しい。ヤジッドの暮らしぶりはかなりキツいのだが、デザートの豪華さはそれと対照的で、まるで夢の世界から来たような完成度だ。たぶんヤジッドにとっては、暮らしはいくら貧しくとも、この豪華絢爛なお菓子のほうが本当の自分があるところなんだろうと思う。