映像を活用したひとり芝居~『ドリアン・グレイの肖像』

 ヘイマーケット劇場で『ドリアン・グレイの肖像』を見た。言わずと知れたオスカー・ワイルドの古典小説をキップ・ウィリアムズが翻案・演出したひとり芝居である。2020年にシドニーで初演されたプロダクションの再演だそうだ。オーストラリアの女優サラ・スノークがドリアン他、全ての役を演じている。

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 映像を駆使した非常に特徴的な演出で、ひとり芝居としてはかなり大がかりなものである。舞台のど真ん中に大きなスクリーンがあり、けっこうな割合の場面はスクリーンの後ろとか端っこでスノークが演じているところをカメラで撮って、それをスクリーンに映すというようなやり方で作られている。複数の登場人物が出てくるところではスノークが事前に撮ったと思われる映像が合成される。ドリアン・グレイの肖像が歪んでいくところについては、スノークが手元のスマホで顔写真にディストーションをかけて表現する。主演女優が観客に見えるところで演技する時も必ずスクリーンには何か映っている。

 ひとり芝居は主演の演技に頼りすぎるフシがあると思うのだが、この作品は映像を効果的に使うという演出上の工夫があるのが評価ポイントだ。もちろん主演女優の演技は大変な熱演でうまいし、舞台上で早変わりしたりするのは面白いのだが、それをきちんと演出が引き立てているのがいいと思う。とくに『ドリアン・グレイの肖像』はもともとイメージと実像の違いに関する話なので、物語じたいの展開と演出のコンセプトがきちんとマッチしている。ただ、欲を言うともうちょっと主演女優をスクリーンの前に置いて演技させる箇所が多いほうがいいかもと思った。イメージと実像の違いを見せる…ということなら、映像を作っているところを含めて主演女優の演技を観客の目の前で見せたほうがもっと効果的なんじゃないかと思うからである。