公演はまあまあいいのだが、劇場が…アイリッシュ・ナショナル・オペラ『椿姫』

 ゲイエティ劇場でアイリッシュ・ナショナル・オペラの『椿姫』を見てきた。オリヴィア・フックス演出、キリアン・ファレル指揮による公演である。

 奇をてらったところのない正攻法の演出で、美術や衣装もだいたい19世紀風である(ヴィオレッタが寝ているベッドだけ現代の病院風だ)。ヴィオレッタ(アマンダ・ウッドベリー)とアルフレード(マリオ・チャン)暮らしている田舎の家や、病気になったヴィオレッタが寝ている部屋など、ヴィオレッタの個人的な空間は家具も少なく質素なのだが、ヴィオレッタの公的空間であるパーティの場面などは派手で色鮮やかな印象を与えるようになっており、ヴィオレッタの暮らしにおける外と内面の対比が強調されている。ただ、最後の場面でヴィオレッタがめちゃくちゃ具合が悪そうなのにコルセットみたいなものを着たまま寝ており、本人も死期を悟っているし胸の病気なんだからこういう胸がしめつけられそうな衣装で寝ているのはおかしいのでは…と思った。

 ヴィオレッタ、アルフレードアルフレードの父であるジョルジオ(レオン・キム)の3人とも歌は申し分なく、とくに気持ちが揺れ動いているヴィオレッタや、良かれと思ってやったことがまずい結果を引き起こして後悔しているジョルジオはとても表情豊かに表現されている。ヴィオレッタは比較的庶民的でたくましそうな女性なのだがとても人柄が良く、親しみやすい感じの女性に作られている。中盤までのジョルジオは世間体ばかり考えていてセックスワーカー差別もしているしひどいじゃないか…と思えるのだが、だんだんヴィオレッタの人柄を知って相手に敬意を払わないといけないと思い始め、最後の場面では「えらいことをしてしまった…」となる気持ちの動きが上手に表現されていたと思う。

 公演はまあまあよかったのだが、劇場が全然この規模のオペラにあっていないと思う。ダブリンはヨーロッパの国の首都で音楽も盛んな都市なのにナショナルオペラハウスがないという珍しい町なのだが(ウェクスフォードには立派なナショナルオペラハウスがある)、どこかにナショナルオペラハウスを作るべきだと思う。ゲイエティ劇場はそんなに規模の大きくないプロダクションをやるにはいい小屋だが、舞台の幅も奥行きも狭いので現代の大規模なオペラをやるにはそんなに適していないと思った。幅がそんなないので、パーティの場面では舞台が少々ごちゃごちゃ混雑しているように見える。また、奥行きもそこまでないので、ヴィオレッタのベッドを動きの邪魔にならないように舞台前方に置いておく場面があるのだが、幕が下りた時にベッドに幕が引っかかって完全に下りないということになっていた。客席の視界も悪く、2階席がすごくせり出しているので(これはロンドンのヴィクトリアンスタイルの劇場でもよくあるのだが)、1階席後方に座ると舞台の上のほうがほぼ見切れる。