スマートにまとめた時代劇ホラー~『悪魔と夜ふかし』(Late Night with the Devil)(ネタバレあり)

 『悪魔と夜ふかし』(Late Night with the Devil)を見た。

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 1977年10月31日、アメリカの深夜トークショーであるNight Owls with Jack Delroyで放送されたエピソードという体のハロウィーンホラー映画である。最近愛妻を亡くし、視聴率も不調なホストのジャック・デルロイ(デイヴィッド・ダスマルチャン)は、ハロウィーンの夜にオカルトがテーマのプログラムを組むことにする。集団自殺したカルト教団の生き残りで、悪魔憑きのような症状を示す少女リリー(イングリッド・トレッリ)とそのかかりつけ医であるロス=ミッチェル医師(ローラ・ゴードン)をメインに、霊能力者のクリストゥー(フェイサル・バッジ)やマジシャンで懐疑主義者のカーマイケル(イアン・ブリス)を呼んでいろいろな角度からオカルト現象を検討する内容になるはずだった…のだが、クリストゥーが倒れたあたりからどんどん番組が怪しい方向にむかうようになる。

 実際にスタジオに悪霊(キリスト教モデルの悪魔かどうか不明で、そうでないような気もする)が降臨してえらいことになるというホラーである。冒頭部分にテレビ史上に残る大変な番組としてこのエピソードを紹介するという設定のプロローグがついており(つまりモキュメンタリーっぽい形式の作品である)、その後は生放送番組という設定でそのままリアルタイムで進む。番組内で放送された内容は70年代っぽいカラー画像なのだが、CM中の舞台裏の映像はモノクロで、こんな映像は残ってないはずなのでモキュメンタリーという構造からするとおかしい…はずなのだが、うまく切り替わるので上映中はほとんど気にならなかった。ホラーなのだがけっこうにぎやかだしテンポも良く、ユーモアがあってあんまりじめじめした雰囲気がない。登場人物の演技もおおむね良く、主演のダスマルチャンはもちろん、リリー役のトレッリが出てきた時から不穏な感じでいかにもホラーのヒロインにふさわしい芝居を見せてくれる。最後までスマートにまとめており、この種の低予算ジャンル映画としては大変面白くきちんと仕上げていると思う。

 私はあまりアメリカのトークショーとかテレビ業界に詳しくないのだが、それでもいろいろなところに事実をもとにした要素が入れてあるのがわかり、70年代っぽい雰囲気作りにも気合いが入っていて、全体的に時代劇としてけっこうリアルな質感があるのがいい。ジャックが行っていたキャンプというのは実際にある有力者が好んで訪れていたキャンプをモデルにしているようだ。カーマイケルは明らかにジェイムズ・ランディに基づいているし、クリストゥーはユリ・ゲラーっぽい。途中の悪魔カルトの集団自殺は、1978年にあったジョーンズタウンでの人民寺院集団自殺を思わせる(1993年のブランチ・ダビディアンの包囲もヒントかもしれないが)。たぶんアメリカのテレビに詳しい人だともっといろいろ小ネタに気付いて面白いのだろうと思う。最後はちょっとファウスト的なオチになるのも、古典を綺麗に消化しているという点で個人的に好みだった。