頼むからひとりにしてくれ!~『スマイル』(配信、ネタバレあり)

 U-NEXTで配信が始まったパーカー・フィン監督『スマイル』を見た。アメリカで大ヒットした低予算ホラーだが、日本では劇場公開なしで配信である。

www.youtube.com

 セラピストのローズ(ソシー・ベーコン)は精神科の急患病棟で働いていたが、ある日奇妙な患者の自殺を目撃してしまう。患者は自殺の直前に妙な微笑みを浮かべていた。それ以降、ローズの周りで不審がことが起こるようになり、ローズはだんだん周りから精神のバランスを失っていると見なされるようになる。

 設定じたいはけっこうありがちで、超自然的な呪いが人にうつるという、日本でもアメリカでもホラーの定番と言えるような展開を使っている。近しい人が自殺すると周囲の人はひどいトラウマを受けてしまうということが根底にあるので、わりと深刻なメンタルヘルスの問題を扱った真面目なホラーだ。そこまで斬新とは言えない展開を使いつつちょっと興味深いのは、そこで「スマイル」つまり微笑が気味悪いものとして扱われていることである。スマイルというのは本来、人間同士のコミュニケーションを円滑にする時に役立つ表情であるはずなのだが、この作品では微笑が内に悪意を秘めた恐ろしいものとして扱われる。さらにこの呪いは他人が見ているところで自殺するか人を殺さないと断ち切れないので、もともとおそらくあんまり社交的なタイプではないヒロインは人里離れたところに行こうとするのだが、関係者はやたら心配してヒロインにひとりでいないほうがいいんじゃないかと言ったり、追いかけてきたりする…せいでヒロインの計画は台無しになる。全体的に、アメリカ社会の「ひとりでいるのはよくないよ!」「笑顔で楽しく!」みたいな社交的な精神の押しつけを諷刺しているようなところもあるホラーだと思った。

 しかし『ヘレディタリー/継承』もそうだったのだが、このタイプのアメリカの最近のホラー映画は、明らかに超自然的だと思われる現象が発生しても当事者がその種の専門家(呪術師とか霊媒とか)に頼ろうとする発想が無いところがちょっと面白いと思う(私は無神論者だが、もし超自然的な呪いをかけられたと確信したら専門家のところに行くのが正しいだろうから呪術師のところに行くと思う)。『悪魔を憐れむ歌』(1998)とかだと一応教会とか悪魔研究の知識とかが出てきたと思うのだが、アメリカはあんなに宗教的な国なのに、最近のアメリカのホラーのヒロインには教会に行こうとかヴードゥーの呪術師のところに行こうとかいうような発想が全然ない。これは何かアメリカの宗教的な文化と関連しているのかもしれないと思う。