キリスト教的生殖観を批判する政治的ナンスプロイテーション映画~Immaculate(ネタバレあり)

 Immaculateを見た。

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 若いアメリカ人の修道女セシリア(シドニー・スウィーニー)は、年老いた修道女の介護施設として使われているイタリアの女子修道院に入って修行することになる。ところがセシリアはこれまで一度も男性と接触したことがないのに妊娠していることが発覚する。奇跡だとして修道院の人々はセシリアを崇めるが…

 全体的に雰囲気のいいホラー映画で、美しい修道院ドーリア・パンフィーリ美術館らしい)で非常にイヤな話が展開する。イタリアロケ以外はあまりお金もかかっていないと思うのだが、セシリア役のシドニー・スウィーニーのスクリームクイーン演技と気の利いた展開でかなりきちんとした作品に仕上がっている。血みどろで残酷なナンスプロイテーション映画なのだが、最初は敬虔でうぶなところもあったセシリアが苦手なものを克服し、自分の体を取り戻すべくたったひとりでそのあたりにあるものだけを使って戦うところはけっこう迫力がある。

 真面目なトーンのホラーだが、The Book of Clarenceなどよりもはるかにキリスト教を激しくおちょくった映画だと思う。『ローズマリーの赤ちゃん』みたいなお話だが、この映画のポイントは、別に悪魔の子でなくても、誰の子だろうがたとえ救世主の子だろうが、女性の意志を無視して妊娠や出産をさせるのはどっちみちおぞましいでしょ…ということを指摘していることだ。本作は修道院がセシリアから自己決定権を取り上げて子どもを生ませようとする様子を描くことで、カトリック教会のマリア崇拝じたいが女性の性と生殖をコントロールする権利をないがしろにする態度からきているものだということを示唆しており、けっこう本質的なキリスト教批判だと言える。この作品に登場する修道院は完全なカルトで、相当に誇張され、戯画化されているのだが、背景にある性差別や権威主義には現在のアメリカで中絶の権利を制限しているようなキリスト教系の保守派に通じるものがあり、現実の社会で実はこれに近い態度がまかり通っているのだ…ということもほのめかしている。キリスト教保守主義を痛烈に批判する政治的な血みどろホラー映画である。