『トワイライト〜初恋』、『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談所』


 
 『トワイライト〜初恋』と『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談所』を見てきた。

 まず『トワイライト』を見た。既にアメリカで見た友達に「CMではあまり面白くなさそうだが、本編を見ると期待したよりずっと良かった」という話を聞いていたのだが、たしかにそうだと思った。はっきり言って吸血鬼役のロバート・パティンソンがあまりにも女に都合の良いキャラクター造形で、もともと吸血鬼映画というのは女向けに作られていることが多いのだが、これは基本的に女の客だけをターゲットに作られている感じだった。

 どういうところが女に都合が良いのかというと、ロバート・パティンソン演じる吸血鬼のエドワードは高校一の美青年で(←私は眉毛のところが目より出っ張りすぎていてあまり顔が好みではなかったのだが)、一見危ない奴風なのだが、実は結構いい奴である(「ヒロインのボーイフレンドは実はいい奴の不良」というのは学園映画の定石である)。で、このエドワードはヒロインのベラが何にもしてないのに勝手にベラに一目惚れしてくれて、危ない時には吸血鬼の力でヒロインを救出してくれて、そのくせに絶対にベラを吸血鬼にしようとしない(このあたり、ポニョがすぐ人間になっちゃう『崖の上のポニョ』の10倍くらいはよく考えている気がした)。ベラは覚悟の上で自分を吸血鬼にしろとエドワードに真剣に頼むのだが(ベラは吸血鬼とつきあってる人間ということで他の吸血鬼に狙われているので、安全のために自分も吸血鬼になりたいと思う理由がある)、エドワードはチャンスがあるのにベラのことを考えてそうしないのである。このベラを吸血鬼にするかしないかというのは明らかにセックスの引喩で、途中でベラとエドワードが関係を持とうとするのだがエドワードがベラに噛みつきそうになって結局関係がもてないという場面もある。

 と、いうことで、吸血鬼と人間の恋は物理的問題のため肉体関係が持てないということになり、この映画はある意味で究極のdelayed fuck映画になってしまっているのだが、このあたり非常に微妙である。いくらベラが頼んでもベラを吸血鬼にしようとしないエドワードは、恋人の自己犠牲を絶対に要求しない思いやりのある男性ということでとても女性に都合の良いキャラクターなのだが、一方でこの映画は女性の性的欲望(=ヴァンパイアになりたいという欲望)が男性によってひたすら拒まれることで成り立っている話でもある。このあたりが極めてアンビヴァレントで、ストーリーはヘタすりゃB級なのに見ている人をじれったくさせるような展開がうまく盛り込んであるので、全米大ヒットしたのもよくわかる。



 で、その後本郷に行ったらなんと授業が休講だったので、ムカついて『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談所』も見てきた。えーっ、で、これは、私が思うに今年今まで見た中で一番面白い映画で、久しぶりに誰がなんと言おうと大好きだと言って人に勧められる映画を見た気がしたのだが、全くアメリカでも日本でも受けてないみたいで、たしかに全然一般受けはしない話だろうなと思う。私が思うに、『天才マックスの世界』と『ナポレオン・ダイナマイト』(またの名を『バス男』)直系のオフビート男の子学園コメディの傑作だと思うので、とりあえずこの2作のどっちかが好きな人は絶対見るべきだと思う。あと、監督は『40歳の童貞男』のプロデューサーなんで、あれが好きな人にもおすすめする。あれが好きな人なら涙無しには見られない場面が一カ所ある。

 お話をかいつまんで言うと、まず主人公チャーリーはすごいお金持ちでしかも基本的にはいい奴なのだが、家庭では父親が脱税で投獄中、母親は優しいが鬱病ってことで頼りにならない両親を抱えており、学校では成績優秀だが全くのボンクラでさっぱり人気がない。人気を得たいばかりにヤバいビジネス(免許偽造とか)に手を出しまくってあらゆる私立学校から放校になり、学校崩壊寸前の公立学校に転校するものの、うっかりラテン語を口にしてしまったせいで転校1日目で不良にボコられる羽目に陥る(このあたり、勉強できる子はいじめられるという田舎の現実を如実に反映していて私は非常に「そうだそうだ!」と思った)。で、チャーリーはこの公立高校でもどうにかして人気を得ようと、自分を殴った不良と結託し、精神科の薬の転売を含めたカウンセリング業を男子トイレで開業。結果的にチャーリーは高校一の人気者になり、校長の娘スーザンとも付き合うことができるようになるのだが、顧客の一人でパニック障害鬱病を併発していたクラスメイトが薬の過剰摂取で自殺をはかったため、ビジネスが暗礁にのりあげる…というお話である。

 こんな感じであまり面白さを伝えにくいストーリーなのだが、チャーリーの人気を得るための涙ぐましい努力が実に私にはグッとくるものがあった。チャーリーの母やガードナー校長(なんとロバート・ダウニー・ジュニア)は「人気だけが全てじゃない」とチャーリーを諭すのだが、チャーリーは「高校でそれ以外に大切な物ってありますか?」と聞き返すと、結局2人ともあまりうまく答えられない。この場面は本当に皮肉が効いていてすばらしいと思った。普通にしているといじめられる可能性が高いボンクラにとっては人に好かれるかどうかが大問題なのに、大人はそのことをちっとも理解してないっていうことがとてもよく示されている。

 …と、いうことで、『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談所』は、全くお客さんが入ってないみたいだけど是非皆さん見に行って下さい。