ドミニクにくにくっ!カトリック教会が憎々しい『シスタースマイル ドミニクの歌』レビュー

 60年代に世界中で大ヒットをとばした「ドミニク」の歌手、スール・スーリール(シスタースマイル)ことジャニーヌ・デッケルスの伝記映画『シスタースマイル ドミニクの歌』を見てきた。


 これは大変地味な映画で、途中かなり中だるみするところもあり、また最後は暗いし、明るい曲調の「ドミニク」からは想像もつかないような重い映画だったのだが、音楽とかカトリック教会に興味のある人は見る価値あると思う。


 「ドミニク」はベルギーにあるドメニコ会フィシェルモン修道院の尼さん、シスター・リュック・ガブリエル(俗名ジャニーヌ・デッケルス)が作詞作曲した歌である。ジャニーヌは保守的な母とうまくいかなくなって修道院に入り、信仰に基づいて修行に励むものの、カトリック教会のやはり保守的な態度(母親とたいして変わらない)にもなじめず、修道院の執行部と衝突を繰り返す。唯一の楽しみはギターを弾くことで、ドメニコ会の創設者聖ドミニクを称える「ドミニク」を作曲するが、ひょんなことからこれがレコードになって大ヒット。しかしながら音楽活動や政治的見解についてジャニーヌと修道院側はことあるごとに衝突するようになり、ジャニーヌは結局還俗して音楽活動をしようとするがそれに失敗。その上ベルギー政府に「ドミニク」の売り上げに関する税金を支払うよう勧告されるものの、修道女として清貧を誓っていたジャニーヌは収益を全てドメニコ会に寄付してしまっていたため、一文無しであった。八方ふさがりになったジャニーヌはレズビアンの親友アニー(二人の関係についてはかなりぼかした書き方にしてある)と心中する。というくらーい話である。


 全体としてカトリック教会は若く才能ある女性の人生をむちゃくちゃにした嫌らしい組織として描かれているように思ったのだが、とはいえこの映画は単なる「カトリック教会に前途を阻まれた女性の悲劇」ではなく、もうちょっと話は複雑だ。というのも、ヒロインのジャニーヌが才能は有り余るほどあるがあまりつきあいやすくはない女性として描かれており、そこがこの映画の印象をますます暗くしているからである。ジャニーヌは本当ならヒッピーにでもなったほうがいいような「自分探し」系の女性なのだが、ベルギーの保守的で勤勉な労働者家庭で育ったためそういう発想がなく、親と衝突したこと、及び親友がレズビアンであったことにショックを受けたのもあって、突然信仰心にかられて修道院に入ってしまう(スピリチュアルは女の逃げ道)。出家の動機がこれだっていうのもなんだかなって感じだが、私はその後のレズビアンの友達アニーに対する接し方にはどうもいやなものを感じたなぁ…最初に還俗した後ジャニーヌはアニーを頼るのだが、アニーと同棲していたところをパパラッチされ、結局ジャニーヌは「あなたを愛せない」と言ってアニーのもとを離れてしまう。しかしながらまた音楽活動が失敗するとアニーのところに戻ってきたりして…アニーはジャニーヌを心底愛しているのでこれを受け入れてやるのだが、なんというかジャニーヌの「自分のカリスマを使って人に頼る」わがままさがこのあたり非常に出ていて、私はなんとなく嫌な感じがすると思った。なんというかこの映画におけるアニーは辛抱強くて愛情深い女で、どんな修道女よりも「許し」とか「慈悲」について理解しているように見える。この映画ではビアンが最強だ。


 全体として、この映画は女性にモラトリアムが許されていなかった時代に、才能はあるが欠点もある女性はどんなに不幸であったか、ということを描いた映画だったように思う。今ならジャニーヌは修道院に入らず、30くらいまでヒッピー暮らしをしながらマイスペースで自作曲のファンを増やしてインディペンデント系のCD会社と契約…とかいうのもできただろうが、家庭では早く結婚しろと追い立てられ、修道院に入っても自分を捨てて修行して早く一人前の修道女になれと追い立てられる60年代のベルギーではジャニーヌみたいな美点も欠点も桁外れな女性がうまく道を切り開いていくことはほとんどできなかったのだろう。まあなんかもう暗い話だったなぁ…