…この英語は手強いぞ!『ウィンターズ・ボーン』(Winter's Bone)

 オザークの貧しいヒルビリーの暮らしを描いた映画『ウィンターズ・ボーン』(Winter's Bone)をBFIサウスバンクで見てきた。

 …で、既にこことかで「訛りが強烈でノンネイティヴにはお手上げ」という噂をきいていたので覚悟して行ったのだが、本当に最後のほうとか3分の1くらいしか聞き取れなかったな…オザークのヒルビリーってもとはアルスターあたりに住んでいたスコッチアイリッシュのはずで、昔はもうちょっとアルスター方言に近い話し方をしていたのかもしれんと思うのだが(まあアルスター方言でもたぶんわからんと思うけど)、いい具合にアメリカ英語化+寒冷地化(?!)していて、独特のモゴモゴしたしゃべり方はノンネイティヴ(しかも普段イギリス英語しかきいていない私のようなノンネイティヴ)には全くお手上げ。

 まあ、とはいえだいたい話はわかる。ヒロインであるリーはまだ17歳の高校生なのに、家に全く帰ってこない父親と、おそらくは精神の病気で話すこともできなくなっている母親にかわって弟と妹の面倒を見ているしっかり者なのだが、父親が家を勝手に抵当に入れたまま行方をくらましたので危うく家を追い出されそうになってしまう。で、リーは家から追い出されないよう父親を探すのだが、どうやら父親は麻薬を作って売っていたようで、何かヤバいことをして殺されたらしい。しかしながらどうやら殺されたということはわかっても証拠がないと何の手続きもできないので、若干17歳のリーはひとりでものすごく危険なめにあいながら父親の死の証拠を探るというような話である。

 とにかくリーを演じるジェニファー・ローレンスがうまいし、リーを助ける親友ゲイル(子持ちの十代で、ロクでもない夫に愛想をつかしている)を演じるローレン・スウィーツァーも良くて、ほとんど頼る人のいないこの二人がヒルビリーの家父長制と血縁に基づいた社会でなんとかやっていこうとするところが非常にリアルである。とにかく登場人物のヒルビリーの人たちはみんな貧しいのだが、若い女性はとくに貧しくて力もない。それでも気を確かにもってなんとか苦境を打開しようとする勇気をこの二人の女優がよく表現しているせいで、台詞がわかんなくても最後まで寝ずに見れるだけの視覚的おもしろさが持続したと思う。あとリーのおじで麻薬中毒のティアドロップを演じたジョン・ホークスもうまい。薬でボロボロになっていて、最初は若い姪を邪険に扱うがだんだん血縁の者を守らないとと思い始める(→つまり、おそらくは「男」の役割を果たそうとする)あたりが非常にうまく出ている。こういう複雑なヤツって家族に一人くらいはだいたいいるよなー。

 まあ、この作品は賞もいっぱいとってて大変評価が高いのでミニシアター系で日本公開されると思う。字幕付きで見れる日本のお客さんは幸せだなぁ…