実はものすごくリアルな設定の出産ホラー『クワイエット・プレイス』(ネタバレあり)

 飛行機内で『クワイエット・プレイス』を見た。

 舞台は2020年の地球。盲目だが極めて聴覚が発達した怪物の襲来を受けた人々は次々と皆殺しにされるが、耳の聞こえない娘リーガン(ミリセント・シモンズ)を育てていて手話で会話ができるアボット一家は、音を立てずにコミュニケーションできるという利点を生かして田舎の農場で生き延び続けていた。しかしながらひょんなことから末っ子が怪物に食われてしまい、リーガンは自分がそのきっかけを作ってしまったと後悔し…

 『ゲット・アウト』なんかをちょっと思わせる現代的なホラーで、盛り上げ方とかは大変うまい。『ワンダーストラック』に出ていたミリセント・シモンズをはじめとする役者陣の演技もとてもよかった。設定にいろいろ突っ込みどころがあるのはまあこの手のホラーではしょうがないと思う…のだが、実はこの「音を出すと死ぬ」という基本の設定じたいは別に全然荒唐無稽ではないというか、極めてリアリティのあるものだ。第二次世界大戦沖縄戦で、防空壕に隠れた際、赤ん坊の泣き声で見つかってしまうので子供を殺せとか、出て行けなどという暴言が聞かれたという話が残っているが、今でもおそらくこの音によって発見されてしまうというのは世界中で起こっていることだ。つまり、たぶんこの怪物が襲ってくる状況というのは、実は人間が実際に戦場などで直面している状況にすぎない。

 それで、たぶんこの映画で一番注目すべきところは、親たちが子供を守るために命から何から全てを犠牲にするということだ。父親のリー(ジョン・クラシンスキ)は子供を守るため怪物に自分を襲わせる。さらに母親のイヴリン(エミリー・ブラント)は末っ子を失った後新たに妊娠しており、怪物から家族を守るためには中絶をしたほうがいいんじゃないかとかそういうことを一切考えずに出産を計画する。こういうポストアポカリプス的な怪物ホラーで出産が出てくるというのは珍しいと思うので、ここは大変注目に値する点だし、話を面白くしてもいる。アメリカではこの映画はプロライフ派(反中絶)の人たちに評判がいいらしいのだが、この作品は反中絶にとどまらず、子供を守るためなら親は命を捨てるのだというかなり過激な家族愛の物語である。ただ、そのわりにはイヴリンが出産から回復する時間が短すぎるんじゃないかとか、なんで水が入るようなところを産室にしたのかとか、ちょっといろいろプロットに穴がありすぎるようにも思った。

 なお、この映画はおそらくベクデル・テストをパスしない。リーガンとイヴリンが長く手話で会話するところがないからである。