プリンス・チャールズ・シネマ『マチェーテ』〜マチェーテは一体どれくらい「紳士」なのか、そしてミシェル・ロドリゲス主演のスピンオフを期待する!

 昨年末にプリンス・チャールズ・シネマで『マチェーテ』を見たので、その感想。前の回の『ウォール・ストリート』は全然お客さん入ってなかったのに、『マチェーテ』は結構混んでた。超簡単に要約すると、メキシコ出身の元捜査官マチェーテ(ダニー・トレホ)が麻薬王トーレス(スティーヴン・セガール)に復讐するまでを描く血みどろアクション映画である。

 …で、こういうふうに説明すると全然面白くなさそうなのだが、皆さんご存じのとおりこれは『グラインドハウス』公開時のフェイクトレイラー(ニセ予告編)がもとになった映画で、このニセ予告編があまりにもおかしかったので本編自体がロバート・ロドリゲスにより製作されることになったという代物。『グラインドハウス』自体がとても志の高い企画(というとヘンだが、それ以外に言いようがなかろう)だったと思うので、金を払って見る価値がある。
↓くだんのフェイクトレイラー。

 
 で、映画館で見てきたんだけど、ツッコンでくれと言わんばかりのありえないほど激しいアクション(もちろん作るほうは客がツッコンでくれるのを狙っている)と残虐すぎて笑える血まみれ描写、キャラが立ちすぎの登場人物の熱演もあり、たいへん楽しい映画である(←ちょっと不適切な言い方である気もするが)。それに見た映画館がチャイナタウンのプリンス・チャールズ・シネマというロンドンきっての映画オタク向け映画館だというのもよかった。ここは館内には『バーバレラ』とか『ゴジラ』のポスターが貼ってあって、サイレント映画の名作や一緒に歌って踊れるミュージカル映画のお祭り上映とかをやっている一方、チャイナタウンということで旧正月には中国の正月映画を上映したり、この間は『巨乳ゾンビ』というとんでもないタイトルの日本映画を上映しているというようなまあそういう映画館である。そんなとこに年末に行くと客は映画オタクばかりなので異常にノリが良く、マチェーテがなんか言うたびに場内大爆笑、上映中に二回拍手が起こった(病院の残虐アクション場面では割れるような拍手が)。一人でDVDとかで見てもそうは楽しくないかもしれんけど、そういうところで見ると実に雰囲気があって実際の出来以上に楽しめる。

 まあしかしこの予告編でこのキャストならもっと面白くてもいい、と思うところは結構あった。とりあえず最大の欠点は話が複雑すぎるところ。別に話が複雑な映画がダメとは思わないのだが、これはいかにも安っぽくて頭の悪そうなエクスプロイテーション映画という雰囲気を大事にして作っているんだから、ストーリーは極めてシンプルにしたほうがもっと「頭悪そう」に見えて効果があがるんじゃないのかな…全体的に詰め込みすぎの感があり、豪華スターの競演を生かし切れていない気もしたので、あらすじを簡単にしてもっとスター総出演の派手な見せ場を作るべきだったのではと思った(個人的にはリンジー・ローハンの尼さんキラーをもっと出して欲しかったかも)。

 あと、ひとつ特筆すべきだと思ったのは、マチェーテはいったいこの映画の中で何人の女と性交渉しているのかという問題である!この映画を見ているとマチェーテはすごくモテモテであらゆる美女と寝ているように見えるのだが、実はそれは叙述トリック(?)でマチェーテは誰とも寝てないんじゃないか?この映画では半裸(たまに全裸)の美女がうろつく場面がいっぱいあり(美女が脱ぐたびに場内大爆笑)、そのほとんどがマチェーテを誘惑するのだが、この映画にはマチェーテがこういう美女どもと性交渉を持つ場面が一切ないのである。泥酔して寝てしまったジェシカ・アルバが朝起きて自分の服が乱れてないことをチェックし、脇で寝ている「あなたって本当に紳士なんだね!」って言う場面があるのだが、だいたいの場面でマチェーテは無口でストイックな殺し屋で女性にはたいへん「紳士的」であり(ある意味、非常に「おとこらしい」男として描かれているとも言える)、筋肉美女ミシェル・ロドリゲスにちょっとふざけかかる以外は全然女を自分から口説こうとかしない。ミシェル・ロドリゲスがベッドに入り込んでくる場面だけはちょっとあやしいが、そこも途中で場面が変わってしまうしマチェーテはケガをしているという設定なので性交渉したかどうかはよくわからない。お色気満載のエクスプロイテーション映画なのに主人公が実は誰ともセックスしてないかもしれないというのはなかなか面白いと思う。うちの好きなアラン・ルドルフの『チューズ・ミー』という映画も、モテモテの色男のキース・キャラダインが作中であらゆる美女とセックスしているように思える…が実際に明示的に性交渉したとわかるのはジュヌヴィエーヴ・ビジョルドだけという不思議な映画なのだが、「色男なのにボンクラ風」というこの個性はちょっとマチェーテと似てないか?(←似てないか…)

 あと、革命戦士役のミシェル・ロドリゲスはすごく良かった。ロドリゲス主演でスピンオフ作ってほしい!