山田雄三『ニューレフトと呼ばれたモダニストたち:英語圏モダニズムの政治と文学』

 『田舎と都会』読書会、既に課題図書は二つともメモをアップしたので、今日からは参考図書のメモをアップする。今日は山田雄三『ニューレフトと呼ばれたモダニストたち:英語圏モダニズムの政治と文学』(松柏社、2013)。

 この本は「遅れてきたモダニスト」としてニューレフトを位置づけ、「モダニストたちが政治と文学とを両輪として動かそうとした『現実』と到達したかった『現実』とを明らかに」(p. 9)することをテーマとした著作である。第一章はウィリアムズの未完の著作『モダニズムの政治』の復元、第二章は遅れてきたモダニストとしてのF・R・リーヴィスとオーウェル、第三章から第六章までがニューレフト、第七章がレイモンド・ウィリアムズとサイード、第八章がサッチャー時代以降を扱っている。このへんを扱った本としてはかなりわかりやすく時代の流れを追ってモダニズムとニューレフトの思想の変遷を手堅くまとめていると思うのでおすすめである。

 とくに面白いと思ったのは第二章で、遅れてきたモダニストとしてのオーウェルとその後世に与えた影響力を論じた箇所である。ジョイスとレイモンド・ウィリアムズをつなぐエグザイルとしてのオーウェル、というのはかなり興味深いと思う。ただ、その後の部分でふつうメトロポリスとして考えられないカーディフとかスウォンジーメトロポリスとして定義してしまっているのはどうなんだろうという気はする。第四章のウィリアムズの悲劇論や第八章のサッチャー政権下の劇場についての議論も演劇研究者ならかなり面白いだろうと思う。第六章の水俣と南ウェールズを関連づける話は面白いけど全体としてこの水俣に関する箇所は必要なのかなぁという気もする。