50-60年代のUK映画を新たな眼で読み解く〜『ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの映像学: イギリス映画と社会的リアリズムの系譜学』

 佐藤元状『ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの映像学: イギリス映画と社会的リアリズムの系譜学』(ミネルヴァ書房、2012)を読んだ。

 1959年から1963年までにUKで制作された、ワーキングクラスの若者の暮らしを描くブリティッシュ・ニュー・ウェイヴ映画を対象とした研究書で、監督としてはリンゼイ・アンダーソン、カレル・ライス、トニー・リチャードソンあたりが該当する。期間も短いしあまり日本ではなじみのないところもあるムーヴメントだと思うのだが、図式的な分析に流れず、シークエンスの流れなんかをしつこく分析することでこの時期の映画が持っている豊かな意味合いを読み取ろうというようなコンセプトはとてもいいと思った。

 個々の分析でも面白いところがたくさんある。第二章『長距離ランナーの孤独』でアラン・シリトーやカレル・ライスの問題意識と同時代のリチャード・ホガートの学術的考察を比較することで芸術と学問を越えて当時の若い知識人が共有していた「複眼的な思考」への渇望を明らかにするところとかはすごく興味深いと思った(pp. 52-53)。あと私は見たことがない映画なのだが、カレル・ライスの『モーガン』の話ではキッチンシンク的スタイルとスウィンギングロンドン的スタイルの対立という話題から入っているのだが、そもそもその二つが対立しているというのが現代からすると見えにくいところでもあるのでもうちょっと詳しく知りたいという気になった。全体的にこの頃の映画をもっと見たいという気分にさせられる。

 一点だけどうでもいいことだが気になったのが、括弧注がけっこうわずらわしいということである。80ページから88ページあたりでヒグソンのタイトルが長い論文を15回くらい引用しているのだが、そのたびに長いタイトルが何度も何度も出てきて括弧注が長くて見た目がやや不格好である。二回目からは省略タイトルにしたほうがいいんじゃないかと思った。