台風が来たぞ!〜実は脚本の妙『パシフィック・リム』[少しだけネタバレあり]

 『パシフィック・リム』を見てきた。

 …じつはこれを見る前に『アイアン・フィスト』を見たので、それに比べるととんでもなく金がかかっているように見えるという金銭的補正がかかってしまい(いや実際にかかってるんだろうけど)、なんかものすごい豪華な映画だったような気がしている。

 それで、既にロボットとか怪獣のワクワク度については多数のレビューが出回っているのもうあまり書くことないかと思うのだが、この映画はロボットと怪獣の戦いだけを面白く見せるために(制作陣も客もみんなが楽しいサービス精神旺盛な映画を作るために、と言い換えてもいいかもしれん)ずいぶん考えて脚本を作っていると思った(細かいツッコミどころはいくつもあるけど見てる間はあまり気にならないし)。と、いうわけで、今回は脚本の効果的な小ネタをひたすら指摘したいかも。

 まず映画がいきなり物語の途中(正式なイン・メディアス・レス方式ではないのだがまさに「途中」)で始まり、その設定を最初の五分くらいで説明してしまうのがすごい。設定としては既に人類は何度も怪獣に襲われており、その対策としてイェーガーという対怪獣ロボットを作っていて、結構既に怪獣に対策できるようになっているため、パイロットはヒーローに、対怪獣戦はプロパガンダに近いものになっている…というのがナレーションで手際良く説明されているのだが、この立ち上がりの早さと一ひねりある設定がこの映画の勝因ではないかと思う。というのも、この話を始めから書いてしまうと、たぶん最初に人類が襲われる→対怪獣ロボットが完成するまでに時間がかかるのでしばらくは怪獣にやられっぱなし→『アイアンマン』シリーズ1みたいにひたすら技術開発→怪獣ロボットバトルはラスト1、2回、ということになってしまい、バトルシーンが少なくなってパニックホラーっぽくなってしまうと思うのだが、この設定だともう開始十分からロボット怪獣バトルを始められるのでつかみはOKである。既にいろいろなところで指摘されているが、ギレルモ・デル・トロはあまり映画の尺を長くするのが好きではないみたいなので、ははあこういうふうに尺を短くして最初に見せ場を持ってくるのか…と感心した。

 あと、タイトルが『パシフィック・リム』ということもあり、かなり怪獣を太平洋で発生する台風を中心とした自然災害と重ねているところも臨場感があっていいと思う(これがアメリカよりも米国外でヒットしてるって、やっぱり台風が来る地域の人のほうがこういう映画に興味あるからなのではと思ってしまった)。「ロボットに乗ればハリケーンの中でも戦える」というような台詞が最初に出てくるし(こちらのブログがこの台詞まわりを分析している)、怪獣が出没する場面はやたら悪天候が多いし(シドニーは晴れてたけど)、チャイニーズの三つ子が乗るカッコいいイェーガーが「クリムゾン・タイフーン」だし、発生した怪獣にいちいち各国語の名前をつけているところもいい(あれ、香港の基地には台風命名リストと似た怪獣命名リストがあるに違いないと思った)。

 全編を通してリスクマネジメント関係の小ネタが入っているところもいいと思う。怪獣とロボットが戦う映画でいきなり最初五分で'Danger turned into propaganda'「危険はプロパガンダになった」みたいな台詞を聞くとは思わなかったのだが、前半部分は政府がイェーガーを廃止して防護壁を作ろうとしてるとか、イェーガーのチームは国から補助金をもらえなくなってレジスタンス活動になってしまったとか、政府のリスクマネジメントがいかにダメかっていう話が結構出てきて、それに対抗するのは国ではなくいろいろな国籍の知恵ある者を集めた国際組織…ということで、このへん、制作陣はあまり政府を信用してなくてインターナショナルな市民の結びつきを指向しているんじゃないかと思う一方、一度危険が過ぎたからと言って研鑽を積むことをやめてはまた危険が襲ってくるから補助金を減らしたりしてはいかんのだよ、という「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」的な現代の科学技術管理政策への諷刺にも思えてなかなかいい小ネタ入ってるなと思った。こういう一見不要にも見える細かい設定を結構前半で丁寧にやってるせいで、文化的背景は違うが才能と志ある者が自分から協力しあって…という話がすんなり頭に入ってくるようになっていると思う。マッドサイエンティスト2人の一見クレイジーにも見える必死の研究がかなり気合い入れて(かつ好意的におもしろおかしく)描かれているところからして、制作陣はかなり災害対策とかの科学政策に含むところがあるんではないかと思ってしまったのだがどうなんだろう(ちなみにエスニシティがドイツ人だか英国人だかよくわからんゴットリーブ博士を演じたのは『トーチウッド』でオーウェン役のバーン・ゴーマンで、見てる時から怪しいなと思っていたが既にゴットリーブ/ガイスラーのスラッシュ絵が出回ってる様子。あれ、スタッフは絶対『トーチウッド』見てるよね)。

 あと、恋愛要素をできるだけ少なくしたのはすごくいいと思う。最後、マコとローリーがキスしたりしないあっさりめの演出は大変良い。あれでとってつけたような恋愛を入れたり、マコをどこにでもいそうなセクシーな「女性」パイロットにしていたらつまんなくなっていたと思うが、そうしなかったことを全面的に支持する。

 と、いうわけで、とにかくロボット怪獣バトルを効果的に見せるためにいろいろ脚本に工夫をしていてその点も含めて私はかなり面白かったのだが、ただXpanD方式で見たのは良くなかったかもと思う。なんか画面が暗くて鮮明さがなく、海での格闘シーンとかかなり色あいに不満が…