ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』〜恋か、諷刺か

 ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』野崎歓訳(光文社、2011)を読んだ。

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)
ヴィアン
光文社 (2011-09-13)
売り上げランキング: 25,276

 きちんと原作を読んだのはこれが始めてだったのだが、読んでみたら『ムード・インディゴ』は思ったよりも全然原作に忠実だとわかり、びっくりした。こんな素っ頓狂な内容をものを40年代に書いていたヴィアンはすごい作家である。おそらく40年代には非常に前衛的だったと思われるが、よくわからない多数のガジェットに歪んだ空間と音楽、今読むとものすごくポップに見える。短い場面をたくさんつなげる構成といい、謎のマシン類といい、大変映画的なので、三度も映画になったのも理解できる。

 解説によると、この小説は純愛ものというよりはむしろ難病恋愛ものをかなり痛烈に諷刺するような話として読むこともできるということで、たしかにコランとその周りの人々に対する視線は割合辛辣なのではないかと思った。小説におけるコランとクロエの愛はセックスが介在しない恋愛ごっこみたいなものとして描かれている、という解釈もあるそうだ。と、なると、コランとクロエがずーっといちゃついていて結構性欲満々だった『ムード・インディゴ』は、構成や美術のほうは原作に忠実だけどセクシーな恋愛ものになっているという点では監督の作家性があらわれていると言えるのかもしれん。

 あと、小説にはなんか結婚式にゲイの介添人が必ず必要という話が出てきて、ゲイの兄弟が出てきて片方が女に心を動かされてモメてるとかいうよくわからない展開になったんだけど、これどうして映画に入れなかったんだろう?うまくやればすごくクィアでぶっ飛んだ面白いシークエンスになったと思うのだが…