百合の伝説〜スタジオライフ『Lilies』(ネタバレあり)

 スタジオライフ『Lilies』を見てきた。ケベックの劇作家ミシェル・マルク・ブシャールによる有名戯曲の再演で、スタジオライフは既に何度もこの演目を取り上げている。フレンチカナダの戯曲が日本で見られるというのはそうたくさんある機会ではないと思うので、とりあえずカナダの文学とかに興味ある人には大変おすすめ。『百合の伝説 シモンとヴァリエ』というタイトルで映画にもなっているので、こちらのほうは見たことある人もいると思われる。 スタジオライフはオールメールの劇団で日替わりでキャストを替えてやるのだが、私はセバスティアヌスというキャストセットで見た。


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 この戯曲はかなり複雑なものである。舞台は20世紀半ばのケベックの監獄で、囚人シモンが聖職者になった幼なじみのビロドーを監獄に呼ぶところから始める。そこでシモンの監獄仲間たちは、シモンの学校時代、1910年代のことを描いた芝居をビロドーに見せる(これ以降、劇中劇。男子刑務所なので当然全員男。女役も男が演じる)。シモンは男子校で一緒に聖セバスティアヌスの芝居を作っていた同級生のヴァリエ(フランスの没落貴族の息子で、ちょっとイカれた感じの母がいる)と愛し合っていたが、シモンは保守的で経験な一家の息子ビロドーから横恋慕されていたり、さらにヘテロとしてパスしようとパリからやってきたリッチな女性リディ・アンヌと婚約したり、なかなかヴァリエへの愛情を示すことができない。シモンは結局リディ・アンヌと別れてヴァリエと心中を図るが、自分だけ助け出されてしまう(ここで劇中劇終わり)。ここまでの経過をビロドー司教に見せたシモンは、おそらくビロドーだけが知っているのであろう事件の真相を話すよう迫る。ビロドーは自分がシモンだけを助け出し、ヴァリエを見捨て、シモンが常に自分のことを思い出してくれるよう、不利な証言をしてシモンを陥れたことを明かす。シモンはビロドーに「大嫌いだ」と言い放ち、ビロドーがショックを受けてそれで終わり。

 劇中劇にさらに劇中劇が入ったり、芝居を使って過去の罪を明らかにするという『ハムレット』みたいな仕掛けがあったり、またまた全ての登場人物が「どういう役を演じるか」ということに意識的に心を砕いていて人生が芝居であるという哲学を強く押し出していることもあり、構成としてはかなり複雑な芝居である。台詞も現代劇とは思えないような詩的でロマンティックなものが多く、非常によくできた戯曲だと思うのだが、上演がかなり難しい作品だと思った。とりあえず台詞が現実感よりは演じることの重要性を引き出すような演劇的な美しさを意識して書かれているのでこれをきちんと言うのは大変で、初日ということもあるだろうがどの役者もかなり台詞が固くて聞き取りづらく、本来台詞が持っているのであろう力を引き出せていない感じがした。また、構成が複雑だが話としては若い恋人たちが世間のせいで引き裂かれるという古典的なもので、没落した貴族が出てくるとかメロドラマティックでもあり、またまたシモンが放火魔でヴァリエが人殺しだったり若さゆえの暴走をかなり大げさに描いていることもあって、下手すると単なる手の込んだメロメロの恋愛モノになってしまいかねないところがあり、その点でもちょっと台詞が固いせいでこの戯曲自体のポテンシャルが完全に引き出されておらず、ただの悲恋物語に見えてしまう部分があるんじゃないかと思った。簡素だが時代ものらしい雰囲気のあるセットとか衣装はいいと思うんだけれども、もうひと工夫ほしいなぁという感じ。

 
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