にせカップルの末路〜『ロンサム・ウェスト』(ネタバレあり)

 新国立劇場マーティン・マクドナー作、堤真一瑛太主演の『ロンサム・ウェスト』を見てきた。これ、戯曲読んだことがあるつもりだったのだが、見に行ったらなんか別の戯曲と勘違いしてたっぽく、原作未読。

 お話はアイルランドの西の田舎、リーナンを舞台に、仲の悪い兄弟、コールマンとヴァレンがひたすらいがみあうというものである。実はこの兄弟は親父さんを殺しており、町の人々は薄々それに気づいているのだが警察とかには届け出ていない。なかなか皆に名前を覚えてもらえないアル中のウォルシュだかウェルシュ神父様はこれを知って自殺してしまい、神父様に惚れていた村娘ガーリーンが半狂乱に…とかいう筋もあるのだが、まあ大変は兄弟のケンカだ。

 こう書くと全然面白い話には見えないが、めっぽう面白い。全編にブラックユーモアが満ち溢れており、さらにドラマティックになりそうな箇所がたくさんあるわりには全然それをクライマックスに持ってこないで、むしろ話が劇的になりそうな箇所に限ってしゅしゅしゅっと話が盛り下がるオフビートな展開になり、そこがまたなんともいえなく可笑しい。非常にリアリスティックではあるのだが、人殺しがうようよしているのに平然としている町の人々とか、やたらひどいプレーばっかりするサッカーチームとか、暴力に満ち満ちているのにそれが全然生活にインパクトを及ぼさないし誰一人倫理とかそういうものを学ばないという展開はむしろシュール、不条理でベケットみたいだ。コールマンとヴァレンの兄弟はちょっと『ゴドーを待ちながら』のエストラゴンとウラディーミルみたいで、非常にしょうもない状態でお互いを必要としているという点で所謂「にせカップル」(pseudo-couple)なんじゃないかと思う。最後、この二人はなくなった神父様の遺言に従って腹の底をぶちまけあい、真のカップルになろうとする…のだが、結局それは全然うまくいかない。この二人はド田舎で永遠ににせカップルを続けるしかないのである。

 おそらく台本の翻訳がいいのだと思うのだが、セリフがとてもナチュラルでわざとらしくなく、また堤真一瑛太ナチュラルさと芝居っけがうまく合わさった演技で非常に笑えた。しかしながら一つ、問題だと思ったのは、コールマンとヴァレンはお互いに「童貞野郎!」とか言い合っていて、おそらくどちらも非常にむさくるしい中年男なのではないかと思うのだが、堤真一瑛太ではイケメン感がありすぎるということである。コールマンがガーリーンとよろしくやったとウソをつくところとか、あれはやっぱりコールマンがもっとブサイクでないといけないのではないだろうか。