わかりやすく、詩情は少なく〜あうるすぽっと、KUNIO11『ハムレット』

 あうるすぽっとでKUNIO11の『ハムレット』を見てきた。全く下調べとかしないでけっこうチケットもまぎわにとってふらっと行ったら非常に短かくて驚いたのだが、あとで調べたらこれ、通称バッド・クォートことQ1に基づいてるんですね!

あうるすぽっとシェイクスピアフェスティバル2014 KUNIO11『ハムレット』

 ハムレットのQ1というのは1603年に出たえらい短いテキストである。これについては海賊版だ、短縮上演版だ、聞き書きだ、などといろいろな説があり、それについては私は以前に大学の講義をツダったものがあるのでこちらを参照。

ティファニー・スターン'"In their Tables": Hamlet Q1 and its Audience'

 で、Q1ハムレットを見て思ったことだが、とにかくわかりやすい。とくにガートルードの後半の台詞や、場面の順番などが非常にかっちりしている。これは翻訳がかなり平易なものを目指しているということもあるかと思うのだが、フォリオとかの後発ヴァージョンでは曖昧にされているところがこのQ1ではかなり整理されてて明確である。そのぶん解釈の余地が少なくなってふだん見ているヴァージョンにあるなんともいえない魅力に欠けるなぁと思うところも…ただしわかりにくくなっているところもあり、フォーティンブラスとかはいったい何だかさっぱりわからないへんな人みたいになっているので、はっきり言って出さないほうがよかったと思う。あと、有名な台詞がほとんどなくなっているため、著しく詩情が削がれている。たとえばオフィーリアの台詞で今では慣用句みたいに使われている「桜草の道」のくだりや、ホレイシオの決めぜりふとして有名な「おやすみなさい、素敵な王子様」もないので、「ほんとにうちらハムレット見たのかな」みたいな気分になってしまうところもある。やはりQ1を使って台詞を足さないでやるのはキツいんじゃないかと思った。

 演出としては、ほとんど何もない舞台にずーっと上にTHEATERという光る掲示がかかっており、クローディアスの罪が明らかになる場面ではこのサインが下がってきたりとか、非常に「これは芝居です」というメッセージを強調するものになっている。またまた意図的に棒読み風の台詞回しを行っており、これまた異化効果がある。明確で詩情よりはドライさを強調する台本ともあいまって、英国ルネサンスのお芝居というよりはイプセンなんかみたいな印象だ。野心的だしつまらないわけではないのだが、こういう異化効果の仕組みがうまくいっているかはちょっとよくわからなかったなぁ…ちょっと異化にしてはわざとらしいような気もするし、さらに台詞回しが後半、少しエモーショナルになったり一定しないところもあったので。

 全体的に衣装はイマイチだったと思う。ハムレットは短パンみたいな格好で、役者さんが小柄なのもあってかなり子どもっぽく見えた。あと女性の衣装、とくにガートルードの衣装が上も下も柄物で下は長いキュロットパンツのようなものだったため、非常にくどく見えた。女性陣の演技はかなり良かったと思うのに、残念。それから音楽をがんがんかけたりする演出があったのだが、音、とくに低音がちょっと割れたり不明瞭になったりするところがあり、音響にも改善の余地があるかなぁと思った。