メガネのサンローランはいいが、話がイマイチ〜『イヴ・サンローラン』

 『イヴ・サンローラン』を見てきた。

 全体的に、サンローラン役をつとめる主演のピエール・ニネと、その恋人ピエール・ベルジェ役を演じるギョーム・ガリエンヌの演技を見るための映画で、脚本や編集にはちょっといろいろ問題があって起伏に欠けていると思った。

 音楽の使い方もうまいし、衣装などはもちろんファッショナブルだ。60年代のサイケデリックなインテリアなども見所である。浮き世離れした芸術家肌なメガネ青年、サンローランを演じるニネはとても存在感があり、ともすれば天才を鼻にかけた変人になりそうなところを繊細な演技で人間味のある人物にしている。包容力がありながら野心も強く持っているピエールを演じるガリエンヌも上手で、この二人はとてもよく息があっている。一番面白いというか見所と思ったのはサンローランのミューズであるモデルのヴィクトワールが去って行くまでのところである。ヴィクトワールは大人気モデルで、しかもビジネスのセンスがあってサンローランがメゾンを立ち上げるのに大きく貢献しており、ゲイのサンローランが結婚を申し込みかけたレベルで親密であった。ところがそんなヴィクトワールをピエールが目の敵にし、サンローランとの仲もこじれたヴィクトワールは追い出されてしまう。このあたり、たしかにヴィクトワールは態度がデカいのだがあれだけ美人で人気モデルでしかもメゾンの立役者の一人ということならこのくらい普通じゃないかと思うんだが、それを我慢できないピエールの嫉妬心がかなりドロドロしており、ファッション界の泥沼の人間模様が垣間見えるようで良かった。

 ただ、全体的にこういう盛り上がりポイントは少なく、話のほうはかなりイマイチだったと思う。前半はけっこうテンポがいいのだが、後半部分はエピソードを飛ばしすぎて、そのわりにはあっさりしていてあまり盛り上がりがなく、「え、いつのまに年取ったの?」という感じで終わってしまう。時系列や視点を乱した編集もあまり効果をあげているとは言えず、冒頭部分では「ピエールと出会う前のサンローランの若い頃の話がちょっと出てくる」→「サンローランの死後のピエール」という順番で場面が並んでおり、「え、この編集だと視点人物ピエールっぽいのにピエールが知らない頃の話が出てないか?」と思ったのだが、この後は別にピエールが唯一の視点人物になるわけでもなく直線的に話が展開するので、結局最初にピエールのサンローラン死後視点が導入した意味はよくわからないまま終わってしまう。またまた、たまにあまり溜めを作らずやたらに場面を早く切り上げてしまうような編集があって、このへんも余韻がなくてあまりよくないなぁ…と思った。