良いところもたくさんあるが、難点も多し〜座・高円寺、タイプス『ハムレット』

 座・高円寺でパク・バンイル演出、タイプスの『ハムレット』を見た。

 セットは右奥に玉座、左奥にアーチ状の入り口があり、基本的に場面転換はない。衣装はだいたい現代風…だが、完全に現代ものっていうわけではないと思う。

 とりあえずいいところはたくさんある。全体的に細やかな演出が丁寧で、ハムレットとホレイシオの親密な友情や、祈りの場面で露わになるクローディアスの激しさなどはいいし、墓堀りの場面で墓掘りがずっと奥に控えていて、ハムレットが王子とわかると挙動不審になったりするあたりは芸が細かい。ボロボロで血と土にまみれた衣装を着てのたうちまわるオフィーリアもショッキングだが哀れを誘う。フォーティンブラスの手の者がデンマーク宮廷に潜入しているという設定なのも政治劇としては良い演出だと思う。あと、旅役者が基本的にオールフィメールなところにも工夫が見られる。

 しかしながらそれ以上に欠点もたくさんある。まず、台詞がつっかえたり早口になったりしすぎで、言葉をおろそかにしているような印象を受けてしまうのがよくない。これは初日ということもあって演技がこなれていなかったのではないかと思う。あとカットの仕方のせいで話の流れが悪くなっている箇所がいくつかある。特に目立ったのはハムレットがオフィーリアの前で暴れる場面で、その後のクローディアスが「あれは恋の狂気じゃない!」とポローニアスに怒るところの台詞がほぼカットされているので、クローディアスがハムレットの振る舞いに感じている危機感がよくわからなくなっているのは非常によくないと思った。またまた一番問題あるのはいきなり挿入される優雅なエアリアルシルクで、これは見た目はきれいだが芝居全体からすると完全に浮いてる。私が勝手に作った法則で「本筋に関係ないダンサーがアートなダンスをする舞台はたいていつまらない」という似非法則があるのだが(ボリウッドみたいなお祭りダンスとかはまた別)、これも血腥い政治劇である本筋とエアリアルシルクがいったいどういう関係を持っているのかがよく伝わってこなくて「付け足しました」というだけに見える。全体的には正攻法のハムレットだったのに、こうした難点のせいで物足りなくなっているのが残念だ。