『輪舞』の翻案、と思いきや…キングズ・ヘッド'Fucking Men'(性的内容・ネタバレ注意)

 私の大好きなパブシアター、キングズ・ヘッドにてジョー・ディピエトロ作'Fucking Men'を見てきた。ものすごいタイトルの芝居だが、この作品はシュニッツラー『輪舞』の登場人物を全員ゲイにして翻案したものである。『輪舞』は10人の男女がどんどんセックスしていくというものである。これだけだとわかりづらいが、シュニッツラーの作品は最初は娼婦と兵士、次が兵士と女中…というふうになって、最後は伯爵が最初の娼婦と…というオチで輪舞が完成する。

 …と、いうことなので、『輪舞』ふうのセクシーで洒脱な諷刺喜劇を予想していったら、まあ笑いはたくさんあるし、わざとステレオタイプなゲイキャラクターを出して面白おかしく諷刺をするというような場もあるのだが、最後むちゃくちゃ深刻な話になってびっくりした。芝居はまず売春している若者と兵士からはじまり、兵士と家庭教師(これはサウナで展開する)、家庭教師と自分はバイだと主張するセックスのことで頭がいっぱいの学生(この場面はウザい学生が家庭教師に迫るのがホント嫌な感じで、家庭教師が最初断りまくるのだが最後は学生のペースにのせられてしまう)、学生とゲイの事実婚をしている男、事実婚している男とそのパートナー(ここではモノガミーが問題になる)、パートナーとポルノスター、ポルノスターと劇作家、劇作家とクローゼットなスター俳優、スター俳優と大物ジャーナリスト、ジャーナリストと売春してる若者というふうに輪舞が回るようになっており、原典の『輪舞』とはかなり設定を変えている場面もある。もともとHIV、クローゼット、貧困、モノガミーとかちょっと深刻な内容が会話の端々に出てくるのだが、性描写がなくなるスター俳優とジャーナリストの場面のあたりから、クローゼットの中年ゲイであるジャーナリスト(リチャード・ステンプが演じている)が長年のパートナーと死別して絶望しているみたいな話になり、そのジャーナリストが最初に出てきた売春している若者(売春をやめ、お金を作ってボーイフレンドと暮らしたいと思っている)に新しい生活を始めろと資金を渡して終わる。この終わり方が実に切実で、突然怒りを爆発させたり悲しみに沈んだりするステンプのナチュラルな演技には悲劇的な風格があり、非常に胸に迫るものを感じた。

 パブシアターなのでとても狭く、セットもほとんどなくて、場面ごとに大きさの違う台を出し入れし、そこをシーツやらなんやらで覆って寝台を作って話が展開するというような演出になっている。客席と舞台が非常に近いのだが、そんなところで全裸の男優が出てきてかなり感情的な台詞を言ったりするので、熱気がすごい(なお、事前に「劇場が暑すぎるので薄着でおいで下さい」というようなメールがキングズ・ヘッドから来ていた)。サウナの場面なんかは実際に暑いところで役者が実に暑そうな演技をする上、熱そうなセックスを暗示する描写もあるので、見ているこちらも本当に蒸し暑くて汗が噴き出るようだ。こういう温度の表現は広い劇場ではなかなか味わえない臨場感だと思った。あまり役者が演技しやすい環境ではないと思うのだが、どの役者も笑わせるところでは笑わせ、悲劇的なところでは悲しませるようしっかり演技しているのが良かったと思う。

 ただ、ひとつ付け加えるなら、役者に民族の多様性がないのはちょっとどうかなーと思った。UKのゲイコミュニティならもっとアフリカンやアジア系がいてもいいはずだし、そういう役者が頼めないわけではないと思うのだが…