ちょっとしたことですれ違う母と娘〜ペドロ・アルモドバル監督『フリエタ』(ネタバレあり)

 ペドロ・アルモドバル監督の新作『フリエタ』を見た。これ、『ジュリエッタ』として日本公開されているのだが、スペイン語だし映画で話していた様子からしても『フリエタ』か『フリエッタ』にすべきだろうと思う。なんでこんな変なタイトルにしたんだろう?

 マドリッドに住む女性フリエタ(エマ・スアレス)の人生を、ある日突然いなくなってしまった娘のアンティアとの関係を軸に描いた作品である。メインの登場人物はフリエタの夫と恋人、鉄道で自殺する人以外ほぼ女性ばかりで、ベクデル・テストはもちろんパスする。時系列はけっこういじっており、フラッシュバックも多いが、ヒロインであるフリエタの思考に沿った自然な構成でわかりづらくは無い。

 とにかく丁寧に女性の心境を描いた作品で、フリエタの心のひだがよくわかるようになっている。母と娘の関係はアルモドバルがずっと描いてきたテーマだが、前の作品群に比べると派手な事件などは少なく、死が二回と家出が一回あるが、どれも誰の人生にも起こりそうな出来事として抑えたトーンで描かれている。アンティアが突然出ていってしまうのも母娘のちょっとしたすれ違いの重なりによるもので、そのさりげなさにかえってリアルな質感がある。娘が出ていてからのフリエタの立ち直り、揺り戻し、そして再度の出発という展開も、娘がいないのに誕生日にケーキを買ってしまうとかいうような細かい描写で上手に見せている。フリエタと夫ショアンの愛人だったアバの関係なんかも単純な敵対でも無条件の友情でもない複雑な描き方になっており、非常に繊細だ。アルモドバルらしいカラフルなセットや小物や衣装、ちょっとクサいけどキュートな音楽なども健在で、見た目にも美しい映画になっている。

 ただ、こうした丁寧さ、抑えた演出はとても良いのだが、たまにちょっと抑えすぎではと思うところもある。たとえば最後はフリエタがアンティアから連絡をもらい、会いに行こうとするところで終わるのだが、再会直前で映画自体が終わってしまってその後何が起こるのかはわからない。これは余韻の深い演出ではあるが、ちょっと控えめすぎてなんだか不安になる。

 とはいえ、こんなに大人の女性の人間関係をじっくり描いた映画はそんなにあるわけではないので、地味ではあってもとてもオススメの作品である。