良い映画だが、いろいろ改善点はある~『バハールの涙』(ネタバレあり)

 シンジャル山脈におけるヤズディ女性部隊の戦いを描いた映画『バハールの涙』を見てきた。

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 フランスの戦争ジャーナリスト、マティルド(エマニュエル・ベルコ)はシンジャル山脈でのヤズディ民兵とISとの戦いを取材することになる。ヤズディの女性部隊の隊長バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)の勇敢さに感動するが、バハールはISに誘拐され、ひどい性暴力を受けて奴隷にされた壮絶な過去の持ち主で、生き別れになった我が子を探す執念に燃えていた。

 

 戦争において被害者となるだけではなく、抵抗を始める女性たちを描いているという点で比較的珍しい映画だし、ヤズディの女性たちに対する取材に基づいて作られた話だそうで(シンジャル山脈あたりには実際にヤズディの女性民兵部隊がいる)、ひとつひとつのエピソードはかなりリアルだし、女性同士の会話などはとても自然である(ベクデル・テストはクリアする)。民兵の女性たちが「女、命、自由」の時代を待望する軍歌を歌うところなどはたいへん感動的だ。ずいぶん悲惨で悲劇的な映画ではあるが、一応最後はバッドエンドでないところもちょっとはほっとする。

 

 ただ、作りの上で気になるところはけっこうある。まず、白人の戦争ジャーナリストであるマティルドの役は必要なのかな…というところだ。マティルドは片目のタフな女性で明らかにメリー・コルヴィンをヒントにしているのだが、こういう白人の観客が代理として映画に入るためだけに存在するような役どころというのはなくてもいいんじゃないかな…と思う。コルヴィンについては既に伝記映画が作られて日本でも公開されると思うし、こういう映画で事績を称えなくてもいいだろうと思う。隊長のバハールがたまたまフランス語がしゃべれるエリート女性だ、というのもちょっと都合が良すぎる気がした(フランス人のジャーナリストを出さなければこれも解決するのだが)。さらに、出てくる女性たちがみんなかなり母性に還元されがちなところがあり、母であり兵士であるという以外の側面があまり見えない。志は高いし感動的な作品だが、改善すべきところはたくさんあると思った。