美しいが人間味もあり、理想化されていないミスコン女王〜『ダイ・ビューティフル』

 ジュン・ロブレス・ラナ監督『ダイ・ビューティフル』を見てきた。フィリピンのトランスジェンダーミスコン女王の、短い波乱の生涯を描いた映画である。

 若いうちから女性のアイデンティティを持っていた主人公トリシャが、性暴力にあい、さらには実家から追い出されるなどひどいめにあいつつ大人になり、恋に落ちたり、養子を育てたりして最後はミス・ゲイ・フィリピーナにまで上り詰めるが急死してしまう。トリシャの親友バーブスはトリシャの遺志に従い、お通夜の間、毎日トリシャに日替わりでセレブそっくりの死に化粧を施すという弔いをする。これを時系列をずらしつつ描いた作品だ。

 話は大変起伏に富んでいて面白く、かつリアルである。まるで伝記映画みたいな作りなのだが、一人の生涯をモデルにしているわけではなく、いろいろなトランスジェンダーの人たちの暮らしを取材してそれをひとつにまとめた映画らしい。トリシャ(パオロ・バレステロス)はとても美しく、人間味もあるキャラクターなのだが、一方であまり理想化されておらず、養女のシャーリー・メイにミスコン出場を押しつけてケンカになるあたり、相当に身勝手な母親の顔も見せる(シャーリー・メイのほうからすると、いくら他の点ではいい母親でもこれだけで相当迷惑な母親だと思う)。トリシャとバーブス(クリスチャン・バブレス)の友情は非常に細やかに描かれており、この2人がお化粧その他いろいろなことについて話すし、シャーリー・メイや弔問客とバーブスの会話もたくさんあるので、ベクデル・テストはパスする。

 全体的にはとても良かったのだが、ただ一箇所ちょっと良くないかもと思ったのは、最初のところでかなり素早く時系列を乱した編集をやっているせいで、立ち上がりの状況説明がせわしなく感じるところである。こういう話だと、普通に撮ると最後の30分くらいはお通夜の様子だけになって全然動きがなくなるので、時系列を乱した構成にするのは正解なのだが、冒頭部分からけっこう急に過去に戻ったりするのでちょっと忙しく見える。もう少しお通夜の様子をじっくり見せてから過去に戻ったほうが構成がなめらかになったんじゃないだろうか。