血も涙もないハッピーなバンドドキュメンタリー~『ギミー・デンジャー』

 ジム・ジャームッシュ監督によるザ・ストゥージズドキュメンタリー映画ギミー・デンジャー』を見てきた。

 ザ・ストゥージズがどういうところから出てきたか、そしてどうバラバラになっていったのかを、バンドメンバーや関係者の証言に基づいて丁寧かつ面白くまとめた作品だ。プレパンク/グラムの伝説的グループとしてアルバム三枚で崩壊したバンドの伝記映画としては全体的に後味が良く爽やかな出来で、血が飛び散ったり涙が流れたりするような展開は少ない。これはたぶんジャームッシュが本気でストゥージズの大ファンなのと、フロントマンだったイギー・ポップが大変元気なのと(酒やらドラッグやら若い頃の超絶不健康ライフを送っていたのにいまだにあんなにパワフルでハンサムだなんて信じられない)、バンドメンバーがとくに凄く不仲というわけではなく2000年代になってから再結成していることに起因するものだろう(亡くなった人もいるが)。とくにジェームズ・ウィリアムソンの話がドラマチックで、ウィリアムソンは途中でバンドに加入し、バンドをやめた後はスタジオで技師をしていたのだが、その過程で電子工学に興味を持ち、大学で学位をとってソニーの重役にまで上り詰めた…ものの、2009年になってから退職してバンドの再結成に参加するというびっくりするような経歴の持ち主だ。ウィリアムソンの話はこれだけで劇映画にすべきだと思う。

 この映画を見ると、同時代のメディアではバカみたいなバンドだと思われていたらしいストゥージズが非常に知的なバンドだったことがわかる。フラワーパワーの時代のヒッピー文化(これはストゥージズのサウンドと対極にあるものだと思うで、初期のストゥージズがマリファナ吸って共産主義的共同生活をしてたっていうのを聞いてへえーっと思った)やサイケデリック・カルチャーからアナーバーの大学文化、ジョン・ケイジ実験音楽までさまざまな幅広い芸術に影響を受けており、あの即興的で野性的なサウンドは実はバンドメンバーの知的好奇心から生みだされたものだったんだろうなと思った。やはりイギーの話は面白く、非常によく考えられた音楽的分析を披露したと思ったら突然不思議ちゃんみたいな発言をしたり、なんだか可愛らしいところもある。