アラバマの田舎のスタジオで音楽が生まれる〜『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』

 『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』を見た。

 これはアラバマのマッスル・ショールズという田舎町にあるフェイム・スタジオとマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオの歴史を追った音楽ドキュメンタリーである。ネイティヴアメリカンの言葉で「歌う川」と呼ばれていたテネシー川に面している、という神話的な話から始まる。この川べりのある地域に、1950-60年代にまずフェイム・スタジオが設立されたあと、その後そこから枝分かれしたミュージシャンたちがマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオを設立した。このフェイム・スタジオの設立経緯についてはもっと詳しく描いたほうがわかりやすいのではないかと思ったのだが、これ以降はかなりきちんといろいろなミュージシャンのレコーディングについてモメ事もよかったことも含めて描いており、非常に面白かった。

 60年代のマッスル・ショールズは非常に白人中心主義的な場所で、アフリカンのミュージシャンが街に来て白人のスタッフと歩いているだけで変な顔をされるようなところだったらしいのだが、スタジオ内では人種に起因する問題が起こったことはほとんどなく、またまたフェイム・スタジオで演奏していたセッションミュージシャンたちはほぼ白人だったのにあまりにもサウンドが荒っぽくて泥臭かったのでみんなに黒人バンドと思われていたとか、当時の人種観についてもいろいろ面白い話が聞ける。一方でやはり全く人種問題がなかったというわけではないようで、いかにも田舎のオッサンふうなフェイム・スタジオのボス、リック・ホール(白人)は最初はアフリカンのミュージシャンから「ほんとにこいつにブラックミュージックができるのか」と思われていたけど結局は信頼を得ることができた、というエピソードが語られている。またまたセッションミュージシャンがアレサ・フランクリンのことを「ベイビー」と呼んだせいでアレサの当時の夫であるテッドが怒ったという話にはちょっと人種問題の臭いを感じるのだが、テッドはかなりひどい夫だったという話なので(ドキュメンタリーに出ているアレサもテッドはロクデナシだったというような雰囲気の話をしている)このへんはわからんな…とはいえ、自分は何も悪いことをしてないのにレコーディングが遅延するという事態になってしまったアレサは相当に気の毒だ。ちなみにアレサのあとにレコーディングにやってきたエッタ・ジェイムスは最初、'Tell Mama'を渡された時、男に尽くす感じの歌だから嫌がったとか…エッタかっこいい!さすがポピュラーミュージックの最初のバッドガールと呼ばれるだけある。

 またまた面白いことに、フェイム・スタジオでは若き日のデュアン・オールマンがセッションミュージシャンとして働いていたのだが、リック・ホールはオールマンの音楽はそんなに好きじゃなくてたいして目をかけていなかったらしい。それでオールマン・ブラザーズ・バンドを逃してしまったということになるのだが、耳が肥えてるはずのリックでもそういうことがあるのか…と思うと、音楽における新人発掘っていうのはなかなかに複雑怪奇なプロセスなんだなと思った。

 なお、レナード・スキナードのコントロヴァーシャルな曲'Sweet Home Alabama'に出てくる「マッスル・ショールズにはスワンパーズがいる」という歌詞は、マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオのセッションミュージシャンたちへの言及だそうだ。この映画のしめくくりにはこの曲がかかる。