産休に入って、生まれてから~『タリーと私の秘密の時間』(ネタバレ注意)

 『タリーと私の秘密の時間』を見てきた。

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 ヒロインであるマーロ(シャーリズ・セロン)は仕事も母親業も頑張っている女性だが、生意気になってきたサラと手のかかるジョナを抱え、3人目のミアも生まれてきて、疲労で精神的に参っていた。このため、タリー(マッケンジー・デイヴィス)という子守を雇うことにする。タリーは若くてマイペースで生き生きした女性だが大変有能で、マーロはやっと休めるようになるが…

 

 これ、宣伝はなんかほっこり女性ヒューマンドラマみたいな感じになっているが、全然そういう映画ではない…というか、出産や育児の描き方がかなり今までの映画と違うし、途中からだんだんちょっとずつ話がおかしくなってくる。まず、マーロが産休に入るあたりから始まるので、既に2人の子どもで手一杯の家が、3人目の出産の疲労でさらにメチャクチャになっていく過程が描かれるのだが、これは今までの映画ではあまり見かけないタイムスパンのとり方だ。さらにマーロの産後のトラブルの描写が大変リアルで、おっぱいが張るわ母乳が漏れるわ、産後の健康問題をこんなに克明に描写した映画は珍しい。このあたりは革新的と言っていいと思う。

 

 それから、「あれれ?」みたいな感じでだんだん話に怪しい雰囲気が漂いはじめる。ネタバレになるのであまり詳しくは言えないのだが、マーロ夫妻はそんなにお金持ちではないはずなのに、毎晩プロの子守であるタリーを雇っていて、リッチな兄夫婦クレイグからお金を借りている気配もない。タリーのバックグラウンドがイマイチはっきりせず、ぼんやり描かれていて身元も不審だ。タリーとマーロが不自然なくらいすぐ仲良くなる(ベクデル・テストはミアの世話の話ですぐにパスする)。それから最後にえげつない開示があり、タリーが抱えていたとんでもない問題が明らかになる。

 

 この映画のいいところは、完璧を目指してはいるが明らかに良い母にはなれていないマーロを糾弾するのではなく、最後は夫が受け入れる方向性で落としているところだと思う。この映画は母性を理想化するようなことはなく、またトラブルを抱えている母親をやたら悪く描いたりするわけでもなく、一見元気で有能に見える母親にもいつでも問題が起こりうるのだというようなスタンスをとっている。病気の描き方には賛否両論ありそうだし(脚本家のディアブロ・コディは『JUNO/ジュノ』の時に中絶の描き方がかなりおかしくて、今回も助産婦などから産後の健康問題の描き方が正確でないと批判が出ている)、ちょっと強引に思えるところもあるが、産後の健康問題をひるまず扱っていて、さらに母親を非難していない点だけでもかなり評価できると思う。