韓国で撮る必要あるの?~『聖地X』(ネタバレあり)

 入江悠監督『聖地X』を試写で見た。

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 小説家志望の輝夫(岡田将生)は父親が残した遺産である韓国の別荘で暮らしていたが、そこに夫と別れて出てきた妹の要(川口春奈)がやってくる。ところが要は町で夫の滋(薬丸翔)を見かけたあたりから不審な出来事が起こるようになる。どうやら原因は近くにある開店準備中の和食店らしいのだが…

 発想じたいはたいへん面白いホラーだと思うのだが、それが全然生かせていない…というか、いくつか大きな問題がある。まず、一番大きな問題は韓国で撮る意味が全く見いだせないということである。途中で韓国の土着の祈祷師であるムーダンが出てくるのだが、そこ以外に韓国という設定に意味があるところは全くなく、単に「外国のきれいなところに行きたいから撮りました」みたいになっている。ムーダンも別にムーダンである必然性は無いので、沖縄か奄美か、あるいは東北のどこか昔の民俗的風習が残っているところでやったほうがいいと思う。

 次に、オチの付け方が強引すぎる。あまりネタバレにならないようにぼかして書くが、最後に韓国に残った滋の問題が完結する過程があまりにもいい加減である。私の意見では、要があの滋(たぶん滋の中では一番まともな性格が集まった滋なのではないかと思う)と結局一緒に幸せに暮らしました、という方向性にしたほうがホラーコメディとしては面白いのではないかと思う。全体的にこの映画は怪異現象の原因には興味がなく、いかにも意味ありげに出てくる和食店のご神木と井戸の詳細なども全く説明されず、どうやって滋の問題を解決するかに重点が置かれているので、ホラーというよりはブラックコメディふうにまとめたほうがいいと思う。

 もうひとつの問題は、これは要を中心の台本にすべきだったのに、輝夫が主人公なので構成がはっきりしなくなっているということだ。プロット上で一番大事なのは要がどうやってボロボロになった結婚に決着をつけるかということなので、たぶん要をヒロインにしてホラーコメディ風にまとめたほうが一貫性のある話になる。ところが輝夫を主人公にしているせいで、離婚をめぐる話なのか、頼りない男が謎解きを頑張るミステリ風ホラーなのかよくわからない感じになってしまい、非常にはっきりしない。