何も捨てられないアルパゴン~『守銭奴 あるいは嘘の学校』

 静岡のSPACでジャン・ランベール=ヴィルド演出『守銭奴 あるいは嘘の学校』を見てきた。

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 先日見たプルカレーテ版がペラペラのセットにわりと地味な服装で、何も買いたがらず出し惜しみする守銭奴の話っぽかったのに対して、こちらはゴミだらけのセットにみんなカラフルな衣装を着込んでおり、何もかもため込んで捨てられない守銭奴のお話といった雰囲気である。若者たちはエネルギーが有り余っており、アルパゴン(貴島豪)もかなり元気でアクティブな因業親父だ。全体的に音の演出がうまく(初っ端からアルパゴンがお金を喜んで集めるところにちょっと面白い効果音が入る)、歌や踊りがふんだんに使われていて、お祭り騒ぎのような上演である。諷刺の対象になっているのはアルパゴンのみならず、それに対抗するクレオント(永井健二)はチャラいしゃべり方の軽薄な若者だし、エリーズ(宮城嶋遥加)も親の言うことを聞く気なんかなさそうな積極的な現代娘だ。登場人物全員の欲望がギラギラしており、パワフルでブラックユーモアのある演出である。

 けっこうカットしてあるのだが、とくに終わり方が現代的だ。アンセルムが出てきていかにも古典っぽい強引なつじつま合わせで終わるところがなくなり、まるで子どもたちに裏切られたアルパゴンの幻想みたいな終わり方をする。ゴミが散乱するセットで結婚式のお金を出したくない、ただし祝宴用の衣装は新調したい…とたったひとりでゴネているアルパゴンは、強欲がたたってひとりよがりな希望を捨てられず、もう現実と願望の区別さえあやふやになってきているのかもしれない。