ダンテが活躍する学園ものミュージカル~『チェーザレ 破壊の創造者』

 ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』を見てきた。惣領冬実作、原基晶監修の同名漫画の舞台化で、小山ゆうなが演出している。2020年に上演予定だったが、新型コロナウイルス感染症で中止になってしまった作品の初演である。友人何人かと見に行き、いろいろ専門家に教えてもらいながら見たので、大変充実した観劇体験になった。

 ピサのサピエンツァ大学で学んでいるチェーザレ中川晃教)はスペイン系の学生からなるスペイン団を率いており、大学内では出身地による派閥争いがあった。フィレンツェ出身であるアンジェロ(山崎大輝)はメディチ家の御曹司ジョヴァンニ(風間由次郎)が率いるフィオレンティーナ団の一員だが、チェーザレと偶然知り合ってそのカリスマ性に惹かれる。チェーザレはまだ若いが、ピサでいろいろと父である枢機卿ロドリーゴ別所哲也)を次期教皇につけるべく、政治工作にも手を染める。

 チェーザレの学生時代の物語なので、ほとんど学園ものみたいなノリである。第一部のヤマはダンテの解釈をめぐる大学での議論だし、第二部のヤマは枢機卿を目指して努力するジョヴァンニの学位取得のための口頭試問だ。さらに200年も前の人物であるダンテ(藤岡正明)の幻影…?のようなものとチェーザレが対話するところもある。けっこうアカデミックな内容で(原作漫画も原基晶さんによるすごい監修が入っていてアカデミックなことにも力が入った内容なのだが)、ルネサンスの政治家というのはこれくらい学識があり、神学とか法学だけではなく文学とか芸術にも通じていないとやっていけなかったのか…と思うとなかなか厳しい世の中だが、少々うらやましくもなる。

 面白いところはあるのだが、内容はけっこう間延びしたところもあると思う。まず音楽が日本の歌謡曲調で、お話の雰囲気にはあまりあっていないし(わざとミスマッチを…という感じでもない)、さらに主役が中川晃教なのにもあんまりあっていない。中川チェーザレなら西洋風の大きなミュージカルナンバーを華やかに歌いこなす…みたいな作りのほうがいいのではと思うのだが(さすがに中川晃教は歌は上手である)、なんだかちょっと音楽が地味に感じられるところもある。冒頭は世間知らずなアンジェロが大学の派閥についていろいろ教わるということで、まるで『ヒース・レジャーの恋のからさわぎ』みたいなので、もっと音楽のほうも現代的でコミカルな学園もの風にしてもいいと思うのだが、そのへんもちょっと真面目にすぎるかもしれない。さらに第二部のほうが第一部より長く、さらに主役チェーザレではなく脇役ジョヴァンニの試験合格で終わり、主役が何かやって綺麗なオチがつく…という形ではないので、そこもちょっと物足りない。