けっこう笑うところが多い~『エンジェルス・イン・アメリカ:第一部「ミレニアム迫る」』

 トニー・クシュナー(最近は映画界でよくスピルバーグと一緒にお仕事している)の『エンジェルス・イン・アメリカ:第一部「ミレニアム迫る」』を新国立劇場で見てきた。上村聡史演出でフルオーディションキャストによるものである。二部作の前半部分である。『エンジェルス・イン・アメリカ』は今まで2回見たことがある。

 エイズや差別、信仰など、アメリカ社会における深刻な問題を扱った大作なのだが、けっこう笑うところも多い。アクの強いロイ・コーン(山西惇)をはじめとして、登場人物がわりとコミカルに見えるところもある。前回見たプロダクションに比べると、全体的に登場人物がみんな疲れてちょっとピリピリしており、みんなそれぞれ日常生活の苦労で手一杯という感じがあると思った(これは上演されている日本の経済状況なども関連してそう思うのかもしれない)。とくにハンナ(那須佐代子)はだいぶ不機嫌なお母さんで、単にいろいろ苦労しているというだけではなくて人生に対する大きなフラストレーションを抱えている女性に見えたのだが、これは第二部でけっこうきちんと回収されていたように思う。ハーパー(鈴木杏)も比較的いけすかない感じの若妻で、私はむしろこういう人物造形のほうがいいのではないかと思った…というのも、夫のジョー(坂本慶介)は感じがよいのに、妻はピリピリしがちでなんとなく好青年の夫に引け目を感じてしまっているというような雰囲気が前面に出るからである。私はあまり感じの良くない女性がたくさん出てくるような芝居は好きなので、ハンナやハーパーが不機嫌そうだが奥行きはある女性なのはとても良いと思った。